『一発当て屋(6)』

マネックスが殺された。
黒服の男かでっぷりと太った方の男かは解らないが、確かにどちらか一方が殺したに違いない。
ジョーは黒服の若い男がベルク・カッツェの変装ではないか、と最初から疑って掛かっていた。
だから、やったのは黒服の男だと思っている。
下手をすれば太った男もやられるかもしれない、と思っていた。
或いは太った男はギャラクターの手下なのかもしれない。
裏でカッツェの意を組んで、いろいろと動いていた可能性もある。
これから取引現場に戻る事になったので、それを探る事は出来なくなった。
どちらにせよ、2人は取引現場に現われる事だろう。
ギャラクター側からは隊長クラスが出て来るに違いない。
この取引はギャラクターによる出来レースとなるのか?
ジョーはゴッドフェニックスに戻ってから、その懸念を南部博士に伝えた。
『ジョーが心配している事は良く解る。その通りである可能性も否定出来ない。
 だが、敵がギャラクターだけなのなら、却って動き易いのではないかな?』
南部博士はそう答えた。
確かにその通りだ。
だが、取引集団の中には、ギャラクターではない、マネックスの石油商連合仲間が混じっている可能性もまだ否定は出来ない。
ジョーは事前にその人物らが取引現場に現われるかどうか知っておきたかったのである。
そこまで慎重になる必要はないのかもしれない。
それにマネックスが消された以上は、連合仲間はこの取引からは最初から外されていた可能性もある。
ジョーはこれ以上深く考えても仕方がない、と思った。
「そうだな。ジョーが挙げた可能性は全て否定出来ない。
 取引時間に現われる相手を見て、こちらの行動を決めよう」
健もそう言った。

取引の時間が後5分と迫っていた。
ギャラクターの飛行空母が空から現われた。
そこからヘリコプターが飛び出して来て、操縦士の隊員1名と、魚の面を被った隊長が姿を表わした。
飛行空母は魚をモチーフにしたものだった。
ご丁寧にもそれを模した隊長服である。
定刻になって、黒塗りの車が炭鉱跡に現われた。
その車から降りて来たのは、黒服の若い男と、でっぷりと太った男の2人。
ジョーは「出来レースだ」と小さく呟いた。
そうとなったら、素直に取引に応じる必要はないではないか。
「さて、自己紹介をして貰おうか?」
黒服の男が言った。
「ギャラクターの隊長、メディクスだ」
「科学忍者隊ガッチャマンだ」
それぞれに名乗った。
健の後ろにジョー達4人が並んでいる。
ジョーは黒服の男を良く観察した。
立ち居振る舞いは非常に落ち着いている。
太った男はまるで部下のように大人しく従っていた。
やはりカッツェの手下なのか?
黒服の男は20代のように見えたが、それにしては落ち着き払っている。
こんな現場に慣れている証拠だ。
「まずはウランを見せて貰おうか?」
健が声を張り上げた。
「とっくに勝手に見た筈だ。双方共にな」
黒服の男が言い放った。
「初値は1億ドルだ。そこから競り方式でどちらか高い値を付けた方にウランを売り渡す」
「国際科学技術庁は競りに応じるつもりはない」
健がはっきりと宣言した。
「これはギャラクター同士による出来レースだからだ」
「何だと?」
「正体は解っているぜ!ベルク・カッツェ!」
ジョーが叫んだ。
「何と!」
黒服の男は黒い布を翻すようにして、紫のマントへと変えた。
「バレていたのか、科学忍者隊!」
「昨日からおかしいと思っていたぜ。カッツェ!」
「くそぅ。科学忍者隊G−2号か」
昨日2人は洞穴の外で逢っている。
「なかなかの役者振りだったが、レストランでマネックスを裏切る相談をしている頃から怪しいと思ったぜ」
「宜しい。ウランは後程、採りに行くとして、まずは科学忍者隊を血祭りに上げろ!」
カッツェは隊長のメディクスに指示をした。
隊長はすぐに飛行空母へと戻った。
ジョーはカッツェの眼に向かって羽根手裏剣を投げたが、マントで躱された。
翻したマントと共に、カッツェの姿はそこから掻き消えていた。
メディクスが乗ったヘリに拾われたのである。
「ゴッドフェニックスに戻るんだっ!」
科学忍者隊も健の指示でゴッドフェニックスへと身を翻した。
南部博士に事の次第を報告し、今の内に国連軍の手でウランを採掘するように依頼する。
『解った。そのように手配しよう』
南部は打てば響く反応で、国連軍に依頼を出した。
警護をしていた国連軍達は、既に防御服を着込んでいる。
作業をするには問題なかった。
南部はすぐに専門家を派遣すると言った。
国連軍だけでは心許ないと言う事なのだろう。

ゴッドフェニックスは大空高く舞い上がった。
「これからどうする?健!」
竜が横を向いて健に訊いた。
「飛行空母にはベルク・カッツェが乗り込んでいる。俺達は中に忍び込んでカッツェを倒す」
「またおらは留守番かいの?」
「ゴッドフェニックスで飛行空母と遊んでやれ」
ジョーが言った。
「出来るだけ飛行空母に近づくんだ。俺達が乗り移ったら、すぐに離れろ」
「ラジャー」
竜は健の指示に操縦桿を押し上げた。
残る4人はトップドームへと上がって行った。
「くそぅ、カッツェの野郎、思った通りだったぜ」
「またジョーの勘が当たったわね」
「お陰で競りをする手間が省けたじゃないか」
健が呟くように言った。
「そうだな。俺達にとっては苦手分野だからな」
「さあ、飛ぶぞ!」
タイミングがやって来た。
健、ジョー、ジュン、甚平の4人は跳躍して飛行空母に飛び移った。
空気の取り入れ口が見えている。
そこから4人は飛行空母の中に忍び込んだ。
飛行空母の中は広かった。
通路には誰もいない。
「みんな気をつけろよ。油断はするな」
「解ってるぜ」
健が注意を引く程、静かで不気味だった。




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