『一発当て屋(7)』

飛行空母内は息を潜めている感じが漂っていた。
どこかで科学忍者隊を待っている。
彼らの侵入を想定しているのかもしれない。
それにしても静かだ。
「奴らの狙いは不意打ちか?」
健が呟いた。
通路には誰もいない。
足音を忍ばせて進んで行く。
やがて広い部屋が見えて来た。
先程のヘリコプターが格納されている。
「此処から司令室に繋がっているに違いねぇぜ」
ジョーが言った。
「ジュンと甚平は動力室を爆破してくれ。俺とジョーで司令室を破壊する」
「ラジャー」
ジュンと甚平がシュッと音を立てて離れて行った。
残ったジョーは健に向かって頷いて見せた。
2人は息を合わせて前へと進んだ。
そこには広い通路がまた広がっていた。
「罠の臭いがプンプンするぜ」
ジョーが警戒感を隠さずに言った。
「ジョー!」
健が叫んだ時、両側の壁から眼にも見えないスピードで槍が突き出して来た。
ジョーも既にそれに気づき、やり過ごしていた。
「この通路は罠だらけだぜ」
「充分気をつけろ」
「ああ……」
次のブロックに差し掛かった時、天井と通路の壁から鉄格子が飛び出して来た。
後ろに戻ろうとしても、既に遅かった。
「健!鉄格子に触るな!恐らくは強烈な電流が流れている!」
ジョーの勘は確かなもので、以前健が『メカブッタ』の時に閉じ込められた檻のように、この鉄格子には電流が流されていた。
一瞬で気を失ってしまう。
その時、床がパックリと開いた。
ジョーは咄嗟にエアガンのワイヤーを伸ばして天井に貼り付け、健の手を引いた。
健をぶら下げた状態で、2人は落ちずに済んでいたが、此処からどう打開したら良いのかが解らない。
鉄格子には電流が流れているし、逃げ場はなかった。
「ジョー。敢えて落下しよう」
「解った!」
2人は翼を広げて落下地点へと降下した。
「ハハハハハハ!」
いきなり高笑いが2人の頭上に降って来た。
「ベルク・カッツェ!」
健とジョーは声を合わせて叫んだ。
「卑怯な!マネックスを利用して、殺すとは」
健がカッツェを指差して言った。
「マネックスは不敵にもギャラクターにウランを売り込んで来たのだ。
 確かに純度の高いものだった。
 あの程度の輩に法外な金額の報酬など払ってやる必要はない」
「カッツェ。おめぇが化けていた黒服の男も殺したのか?」
「その通り。エジソン川に浮いて貰った」
「それをマネックスの仕業だと噂を流したな?」
「そうだ。悪い噂を流して、黒い男だとISOに思わせたかったからな」
ジョーは怒りに震えた。
これが本当だとすれば、マネックスは少なくとも、ただの『一発当て屋』だったに過ぎない。
死なせる程の人物じゃなかった、と言う事だ。
救えなかった事が悔やまれる。
「なあに、どうせあいつらは被曝している。防御服を着ていなかったからな」
「おめぇ達だって着ていなかったじゃないか?」
ジョーは当然の疑問を投げ掛けた。
「残念だったな。面を被っている下に防御服を仕込んであったのだ」
だから、カッツェが変装した黒服の男と、部下の太った男は放射線には被曝していないのだ。
「そう言う事か?何かあると思っていたが……」
健が言った。
「こんな部屋に俺達を連れて来て、一体何をするつもりだ?!」
ジョーは警戒を崩さないままそう言った。
カッツェやその部下達はサッとガスマスクを取り出して、顔に付けた。
「これからガス攻めに遭って貰う。そこで2人仲良くあの世に行くが良い」
健とジョーは眼と眼で合図をした。
2人共水中で使う小型の酸素ボンベを所有していた。
ガスが撒かれ始めると、カッツェとその部下達は部屋から姿を消した。
このガス室から早く抜け出して、司令室を破壊しなければ……。
2人は苦しみながらも、打開策を考えていた。
ジョーが2人で竜巻ファイターをしたらどうだ、と言った。
「よし、やってみよう」
ジョーの肩の上に、健が立った。
「科学忍法竜巻ファイター!」
2人は勢い良く回転し始めた。
竜巻はガスの噴出口を破壊し、カッツェが高見の見物をしていた場所に2人は着地した。
「ふう。小型酸素ボンベが役に立ったな」
健が呟いた。
「そろそろジュン達が動力室を爆破する頃だろうぜ」
ジョーが言った瞬間、ドーンと激しい音がして、飛行空母の飛び方が怪しくなった。
「案の定だぜ。グッドタイミングだ」
ジョーがニヤリと笑った。
「さあ、こっちも反撃に出るぞ」
「おうっ!」
2人はカッツェが消えたエレベーターから上へと上がった。
思った通り、そこが司令室になっていた。
「何と!生きておったとは!!」
カッツェが狼狽えた。
「残念だったな。科学忍者隊は不死身だ」
健が見栄を切った。
ジョーは黙って、雑魚兵と闘い始めた。
健はカッツェの傍にいるので、マシンガンでは狙われにくい。
ジョーはバック転をしながら飛び跳ねるようにして、マシンガンの咆哮から避けた。
羽根手裏剣を繰り出して、敵の手の甲を射抜いて行く。
マシンガンが取り落とされて、勝手に発射されている。
それには構わずに、長い脚をバレエダンサーのように回転させ乍ら、敵兵を薙ぎ払って行った。
跳躍しながら、キックを正確に入れて行くと、敵兵はバタバタと面白いように倒れて行く。
ジョーはバネが強いのだ。
回転して、自分の後ろ側にいた隊員に、重いパンチを繰り込んだ。
鳩尾をやられた隊員は、堪らずに膝を突く。
そのまま床に倒れ込んでしまった。
雑魚兵と闘っている間にも、ジョーは忘れては行けない人物がいる事を考えていた。
そう、魚の面を被った隊長のメディクスだ。
メディクスはカッツェの後ろに控えている。
それがいつ出て来るのかが気になっていた。
健がいるから大丈夫だろうが、隊長を相手している間にカッツェに逃げられる可能性が高い。
今度こそそれは避けたい。
ジョーはそう思っていた。




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