『一発当て屋(8)/終章』

ジョーは隊長の動きを気にしながら闘っていた。
魚の面を被ったメディクスと呼ばれた隊長は、腕を組んでジョーの闘い振りを見ていた。
そして、健はカッツェを詰(なじ)っていた。
襟元を掴み掛けたその時、隊長が動いた。
何時の間にかカッツェと身体の位置が入れ替わっており、健に襟元を掴まれたのは、隊長の方だった。
物凄い力で健は引き離され、投げ飛ばされた。
しかし、空中で回転して健は見事に着地する。
その瞬間にはカッツェが逃げ出そうとしていた。
ジョーはそれを見落とさずに、すぐさま追い掛けた。
しかし、いきなり現われた透明のガラスに行く手を遮られてしまった。
カッツェの常套手段だ。
「くそぅ!ベルク・カッツェめ!」
ジョーはガラスをどんどんと叩きながら去って行くカッツェを睨み続けた。
しかし、隊長の攻撃に遭って、そうしている訳には行かなかった。
ジョーは跳躍して、隊長の電気鞭での攻撃を避けた。
隊長の魚のマスクは電気鰻に模してあったのだ。
健と2人、背中合わせになった。
「早く此処を爆破して、カッツェを追わねぇと!」
「心配するな。竜にレーダーで追跡させている」
健が不敵に笑った。
「そうか。そりゃあいい!」
ジョーは声を張り上げた。
雑魚兵と闘いながらも、隊長との駆け引きも続いた。
ジョーは回転して敵兵を長い脚で蹴り上げながら、次の瞬間にはジャンプして離れた処にいる隊員にまた鋭いキックを入れていた。
健が電気鞭に向かって「バードラン!」とブーメランを投げているのが見えた。
ジョーは敵兵に肘鉄を加えながら、素早く腰からエアガンを取り出した。
三日月型キットを飛ばして、隊長の右腕を取ったのだ。
「健!」
ジョーが隊長の腕を不自由にしている間に、健はブーメランで電気鞭を叩き落とした。
隊長の右手は血塗れになっている。
これではもう電気鞭は使えまい。
ジョーは黙って踵から爆弾を取り出した。
健も同様にしている。
「1分後にセットするんだ」
健が言い、ジョーはそれに従った。
コンピューターの中枢装置にそれを仕掛けた。
「よし、脱出するぞ!」
「ラジャー」
「待て!そうはさせん!」
先程の隊長、メディクスが左手に鞭を持ち替えて立っていた。
右手からは血が滴り落ちているが、なかなか豪胆な隊長だ。
「さすがだな。それ程堪えちゃいねぇようだ」
「もう此処は爆発するんだぞ!」
健が言い放った。
「構うものか。わしの生命などくれてやる。お前らも道連れだ」
隊長は既に覚悟をしていた。
覚悟を決めた人間程恐ろしい物はない。
しかし、ジョーは屈しなかった。
間髪を入れずに羽根手裏剣を眼にも止まらぬスピードで隊長の左手の甲に向かって繰り出したのだ。
隊長は激しく絶望の呻き声を上げた。
もう両手が使えない。
電気鞭は取り落とされ、ただのロープと化した。
「さあ、健。急ごうぜ」
「ああ!」
2人は勢い良く走り始めた。
もう残り時間は数十秒しかなかった。

健とジョーが戻るのを待って、ゴッドフェニックスは飛び出した。
カッツェのレーダー反応を追うのだ。
「レーダー反応、北西の方向500km」
ジュンが知らせた。
「竜、マッハ5で飛ばせ!」
「ラジャー」
ゴッドフェニックスは猛追を始めた。
いつぞや森の中にカッツェを追い詰めたように、今回もまたどこまでも追ってやる。
5人の覚悟は同じだった。
「レーダー反応が消えたわ。FX525の地点よ」
「竜、そこに着陸だ」
「解った!」
しかし、FX525地点は海の上だった。
見渡す限り、船が航行しているようには見えない。
「カッツェが乗っていたロケットは潜水艦だったんだ!竜、潜行しろ」
健が的確な指示を出す。
「ラジャー」
ゴッドフェニックスは深く海に潜行した。
だが、潜水艦などどこにも見当たらない。
「注意して探すんだ!」
健の眼の色が変わっている。
ジョーも同様だった。
2人にとって、ベルク・カッツェは親の仇なのである。
「ソナーに反応あり。右50度」
ジュンが声を上げた。
「よし、全速力!」
「カッツェめ!今度こそ化けの皮を剥いでやる!」
ジョーが叫んだ。
カッツェのせいで、どれだけの人間が犠牲になった事か。
今回の事件も残忍その物だった。
ジョーの怒りはMAXに達していた。
「潜水艦が目視出来そうだぞい。スクリーンに拡大する」
竜が言った。
しかし、そこに映った潜水艦は先程のカッツェが乗っていたロケットとは余りにも姿形が違っていた。
「でもメカが変体した可能性もあるぜ」
ジョーが怪しげだとばかりに言った。
その時、向こうの潜水艦の方から通信して来た。
『こちら国際科学技術庁調査艇E46号。ゴッドフェニックス、何かありましたか?』
この通信には5人に衝撃が走った。
確かに船体を拡大して見た映像には、『ISO E46』のマークがある。
「ギャラクターの首領を追って来たのですが、何か不審な物を見掛けませんでしたか?」
健が訊ねる。
『こちらE46号。不審物を見掛けた者はおりません』
「そうですか。有難うございました……」
健は落胆した。
それは他の4人も同じ事だった。
「カッツェの野郎、また逃げ仰しやがったか!」
ジョーは悔しさに思わず、自分の座っていた椅子に右手で叩きつけた。
「くそぅ!」
悔しさは収まらない。
此処まで追って来たのだ。
「こちらガッチャマン。南部博士どうぞ」
健は南部博士を呼び出して、事の次第を告げた。
『止むを得ん。そこまでやって、逃げられたのだ。私は何も言わん。
 それより、専門家の手によって、ウランは順調に採掘されている。
 諸君のお陰だ。有難う』
博士はそれだけ言うとスクリーンからアウトした。
今回の任務は一応成功だが、カッツェを逃がした事実は消えない。
科学忍者隊の心にまた影を1つ落とした。




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