『物思いの午後』

ジョーは口笛を吹き乍ら、1人広い公園を歩いていた。
今日は久々の休暇だった。
サーキットにも出向かず、何となくG−2号機を飛ばしてやって来たのであった。
緑が多い公園で、爽やかな風が心地好い。
こんな場所に1人で来るのは久し振りだった。
任務もレースも彼にとっては『闘いの場』である。
その双方を離れて、たまには1日のんびりと過ごすのも悪くないと思い、彼はこの後街に出ようと心積もりをしていたのをあっさりとやめる事にした。
このような安らかな時間を持てる事は少なくなっていた。
日頃から南部博士の護衛に就く事が多かったし、科学忍者隊としての任務も激務となり始めていた。
その合間には可能な限りサーキットにも通っていたし、彼はその若さ故に常に活動的な毎日を送っていた。
科学忍者隊のメンバーは、誰よりも濃密な10代を過ごしている。

公園には女性と子供が多かった。
今日は平日だからだろう。
昼休みなのか、手製の弁当を持って制服を着たOL達が集まり、賑やかに話をしている。
子供達のはしゃぐ声と若い女性の華やいだ声が、ジョーに平和を感じさせた。
(こんな平和をぶち壊すギャラクターめ!俺は絶対に貴様らを許さねぇ…)
突然そんな思いが脳裏を掠め、彼は歩みを止めた。
彼は憎しみだけを糧に此処まで生きて来た。
ギャラクターを壊滅させたら、その憎しみは消えて行くのだろうか?
それとも自分は一生この思いを抱えたまま生きて行くのか?
ジョーはじっと両掌を見つめた。
(俺も…、健も、ジュンも、甚平も、竜も……、ギャラクターを倒すまでは将来を思い描いちゃあならねぇのか?)
暗闇の中でもがき苦しんでいる自分と訣別したいと言う思いが彼の中に芽生えていた。
『憎しみや闘争本能だけで生きて行くのは余りにも残酷じゃねぇか!』
そう思った時、急に周囲の騒めきが聞こえなくなった。
風の気配も感じなくなり、周りが真っ暗になったような気がした。
ジョーは一瞬の気の迷いだと、その思いを心の奥底に押し込めた。
(違う!俺達は未来を切り拓く為に闘うんだ!自分達の未来、そして地球の未来を…!)
負のエネルギーを闘争心に変えるのではなく、未来に向かって行く為に闘うのだと思う方がどれだけ自分の人生にとって有益な事だろう?
そんな考えに至った時、騒めきが耳に戻り、風も、光も、再び彼を優しく包み込んだ。

科学忍者隊の『コンドルのジョー』も素に戻ればごく普通に悩み、苦しむ少年だった。
しかし、どれだけ重い過去を背負っていたとしても、彼にはそれらの逆境を跳ね返すだけの若さと精神力があった。
(ウジウジ考えてるのは俺の性に合わねぇのさ!柄にもなく、余計な考え事をしたぜ!
 俺は科学忍者隊だ!惑うんじゃねぇっ!一瞬の気の迷いが自滅を導く事になるんだ!)
ジョーは両手で頬をパシッと叩いて気合を入れ直してから、G−2号機を置いて来た方向に振り返った。
(やっぱりあいつをかっ飛ばした方がスッキリ出来そうだな)
サーキットに向かおうと意を決して走り始めた時、ブレスレットが鳴った。
「こちらG−2号!」
周囲に聞き取られないように注意を払って応答しながら、ジョーはその走るスピードを短距離選手並みに上げていた。
既に普段の『コンドルのジョー』の顔つきに戻っている。
「よし!俺はやってやるぜ!」
ジョーはそう呟いて勢い良くG−2号機に飛び乗った。




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