『療養』

「ジョー、どうしたのだ?その足は…?」
任務終了後の報告が済んで解散する時に、南部がジョーの右足首を縛った白いハンカチを見咎めた。
「ああ、なぁに掠り傷ですよ」
ジョーは事も無げに答えた。
G−2号の到着が遅れてゴッドフェニックスに合体出来ず、その結果健達4人が捕虜になった事件の時の事だった。
敵の隊長のバズーカ砲と対峙した時、砲弾が右足を掠めたのだった。
ジョーは無造作にハンカチで傷口を縛っただけでいた。
「博士、ジョーが俺達を救出しに来てくれた時にバズーカ砲が足を掠ったんです。
 動きに問題はないように思いますが、傷を診てやって下さい」
健がリーダーらしく言った。
「ジョー、傷を見せてみたまえ」
ジョーは仕方なく、ソファに座るとハンカチを取って裾を上げて見せた。
出血は既に止まっているし、その量も大した物ではない。
単なる擦過傷のように見えるが、良く見ると若干肉が抉れている。
「うむ…。今日は様子を見よう。発熱があるかもしれん」
「え?この程度の傷でですか?」
ジョーが驚いて訊いた。
「バズーカ砲の威力は良く知っているだろう。掠っただけとは言え、甘く見ては行かん」
博士は部屋に装備されている応急処置セットで、傷口を消毒し、適切な薬を塗ったガーゼを宛がい、丁寧に包帯を巻いた。
「膿んで来る可能性がある。油断してはならん。
 任務で怪我を負った時は必ず隠さずに報告したまえ。
 いいか、ジョーだけではないぞ。諸君にはそう言った事の報告義務もあるのだ」
「解りました」
健が代表して答えた。

トレーラーハウスに帰る事は許されたが、ジョーは夜になって身の置き所がないような異常な感覚に包まれた。
全身が気だるく、雲の上を歩いているような感じがした。
(おかしい。こう言った時は早く休息を取るに限るぜ)
ジョーは大人しく早めに床に就いたのだが、段々と寒気に襲われて来た。
南部の傷の手当は適切なものだったが、翌朝になって博士の心配通り、傷口が膿み始めた。
ジョーは目覚めてベッドから降りた時、足首の痛みと腫れ、そして身体の激しいふらつきに驚いた。
高熱を発していた。
南部の読みは奇しくも当たってしまったのである。
科学忍者隊はいざと言う時の為に、ある程度の応急処置は叩き込まれている。
ジョーは救急箱からガーゼと消毒薬を取り出した。
博士から万が一膿みが出たら服用するように、と貰った疼痛を抑える薬と化膿止めの薬もある。
ガーゼを剥がす時は、さすがのジョーも少し顔を顰(しか)めた。
清潔なガーゼで傷口の消毒をする。
消毒薬は傷口に沁みて、その痛みを増した。
(くっ…この程度で…)
ジョーは博士に渡された塗り薬をガーゼに塗り、傷口に当てるとその上から包帯を巻いた。
後は薬を飲んで大人しく休んでいるしかない。
幸い今日は休暇になっていた。
食事をしたかったが、高熱でフラフラとして、立ち上がる事すら出来ない。
それでも何とか冷蔵庫に辿り着いた時、ノックの音がした。
「健か?鍵なら開いてるぜ」
掠れた声が出た。
入って来た健はジョーの様子が尋常ではない事をすぐに見抜いた。
後ろに甚平もいる。
「やはり博士の言う通りだったな」
健はジョーの身体を無理矢理にベッドへ戻し、タオルを絞って彼の額に乗せた。
「甚平に食事を作って貰って持って来たから、喰うといい。
 南部博士の所に行って療養して貰う方が安心だし、それを喰ったら送って行こう」
「ジョーの兄貴、精を付けて休んでればすぐに良くなるってさ!」
甚平がタッパーに入れた心づくしの料理を開け始めた。
「食欲が無くても喉を通りやすいものを見繕ってみたよ」
「すまねぇな、甚平…」
「ジョーが寝込む事なんて滅多にないもんな。おいらで役に立つならいつでも来るよ」
甚平が作って来たのは卵雑炊だった。
「ジョーの兄貴、そこでいいから喰ってみなよ。丁度良く冷めて来てるよ」
ジョーはベッドの上から甚平の頭を撫でた。
「ありがとよ、甚平…。ああ、健も、な」
「喰い終わったら、博士の別荘に行こう。
 三日月基地では落ち着かないだろうから、別荘で療養するように、と博士からの命令だ」
「大した事はねぇよ!此処で充分だ」
「駄目だ!博士からキツく言われているんだ」
健に押し切られ、結局ジョーは4日間程別荘で療養する羽目になった。

※この話は066『救出』の後の話となります。




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