『G−2号との旅から帰還して…』

エアガン自体は竜も携帯している。
しかし、彼は専ら怪力で闘う事を専門にして、まずエアガンを抜いた事がない。
本来の目的以外で使っているのをたまに見掛ける程度である。
竜は敵を殺す事を恐れているのかもしれない。
ひと度撃てばその殺傷力でかなりの重傷を負わせる事が出来るし、殺す事も出来る武器だ。
その使い手の技により、相手を生かすも殺すも可能になる訳で、これを意のままに使いこなすには、相当な射撃の腕が必要となる。
ジョーが持っていたエアガンはマルチな使い方が出来るように改良を重ねて来た。
南部博士も彼が自分の思いのままに武器を取り扱える事を知っているからこそ、彼の意見を取り入れるべき処は取り入れて、今の形に完成した。
博士がジョーの手先が器用な事、身体能力に優れ、俊敏である事を知ったのは、BC島で瀕死の彼を救って自ら引き取ってから間もなくの事だった。
幼いジョーは身体の傷が癒えて来ると、ちょっとした身のこなしにもその片鱗を見せるようになっていた。
とても8歳の子供とは思えないジャンプ力や、ダーツで遊ばせた時の狙いの確かさには驚いたものだった。
そして、本人にせがまれてカートに乗せに連れて行った時に彼のドライビングテクニックが将来とてつもない物に成長するだろうと言う事も容易に想像する事が出来た。
科学忍者隊を編成して、羽根手裏剣を持たせると、案の定意のままに的へと命中させ、銃器の扱いも誰かに特別訓練でも受けたのかと思う程の腕前を見せたのである。
(あれはジョーの天性の勘だったのだろうか……)
南部はデスクの上に置かれている健がクロスカラコルムから持ち帰って来たジョーの遺品に視線を落とした。
それは無傷のままのエアガンと無残にも折れ曲がった羽根手裏剣だった。

「健、ご苦労だったな…」
「博士。俺の休暇の理由を知っていて送り出してくれたんですね」
健は穏やかに答えた。
「G−2号機を貸して欲しいなんて頼まれれば、他の理由は考えられまい」
博士が微笑んだ。
健は暴走族に取り囲まれた時に、グローブが蒼く光ってからの不思議な体験を博士に包み隠さずに話した。
「ジョーは私の所にも来るのだよ、健…」
博士が静かに健の眼を見つめた。
「勝手な事をして申し訳なかった、と言うのだ。
 でも、自分の生き方には一点の曇りもなく、後悔はしていない、と…」
博士が初めて健の前で涙を見せた。
この1年間1度もそのような事は無かったのに…。
「私はジョーを救う事が出来なかった。
 身体の変調に早く気付いてやっていれば…、と後から後悔してもどうにもならん」
健は驚愕した。
「博士……」
そうだ、この人も胸を痛めていたのだ。
健は改めてそう思った。
親代わりのようにして養育して来た日々の事や、科学忍者隊を組織してからの様々な出来事が南部の脳裏に去来して、ついに堪(こら)え切れなくなってしまったのである。
「博士は俺達の前で泣く事すら出来なかったんですね…。辛かったと思います。
 それなのに俺達は博士に甘えてばかりいました」
南部博士は健がこの旅で一回り大きくなって帰って来た事を悟った。
「健…。大人になったな…」
博士は健の肩に温かい手を置いた。
「ジョーが居てくれれば、と思う事は毎日のようにある。
 私の身辺の護衛に付いて貰う事も多かったし、彼の不在は正直言って私にも堪えている。
 だが、君達にとってはジョーはもっと大きい存在だっただろう。
 それを良く乗り越えてくれた」
「いえ、ジョーのお陰です。あいつが俺をあの場所に誘(いざな)ったのだと思います。
 G−2号機と一緒に……」
健は慈しむようにジョーのエアガンを胸に抱き、羽根手裏剣を掌に乗せた。
「もう迷いはありません。ジョーが俺を導いてくれたのですから」
青い瞳をそっと閉じて、健はジョーの面影を追った。
「あいつはいつでも、俺達の傍に居ますよ、博士」
「うむ…」
南部は広い窓の外の夕焼けを眺めた。
2人はオレンジ色に染まる空の中に微笑むジョーの幻影を見た。
「健。そのジョーの遺品は君が大切に持っていたまえ」
「はい。有難うございます」
「他の諸君にはそれを見せたかね?」
「あ…博士に先にと思って……」
「そうか…。では諸君にも見せてやってくれたまえ。
 地球が救われた本当の理由が解って、皆喜ぶに違いない…」
博士は健に背を向け、目頭を押さえた。


※この話は006『G−2号との旅』の続きの話となります。




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