『キャンプ』

「ジョーの兄貴。おいらと一緒にキャンプに付き合ってくれない?」
『スナックジュン』のカウンターでコーヒーを啜っていたジョーは甚平の言葉に吹き出しそうになった。
「何だって俺に白羽の矢が立ったんだ?」
「だってさぁ。兄貴や竜じゃ環境対応能力が無さそうだし、おいら1人じゃテントが組み立てられないじゃないか……」
「だったらみんなで行けばいいだろう?竜は力持ちだからそう言った意味では頼りになるぜ」
「なら他の2人は?」
「………………………………………」
ジョーもさすがに言葉に詰まった。
キャンプ場で役に立ちそうな2人ではない。
「おいら、キャンプってやってみたかったんだよね〜」
「だが、いつ任務が入るか解らねぇぜ。遠出は無理だ。解ってんだろうな?」
「解ってるよ……」
「南部博士がOKを出してくれれば付き合ってやってもいいぜ。なあ、竜」
「あん?おらもか?……まあ、いいや」
竜が欠伸をしながらのんびりと答えた。

意外にもあっさりと南部博士の許可が出た。
但し5人揃って、それも任務を兼ねてだ。
「テムテス川の上流から時折汚染物質が流れ出ていると言う事が解った。
 諸君にはこれを探って貰いたい。これまでの調べで地球上の物質ではない事が解っている」
「つまりはギャラクターの仕業って事ですか?」
健が訊く。
「そう言う事だ。竜は川の上流にあるサバリー山にゴッドフェニックスを隠し、ジョーに拾って貰いたまえ」
「ラジャー!」
どうやら甚平が思い描いたようなキャンプが出来るかどうか怪しくなって来た。
甚平は健の事を慕ってはいるが、ジョーの男臭さにも憧れている。
たまにはジョーと一晩ゆっくり話をしてみたいと思っていたのだ。
男の子っぽい冒険を期待していた。
そこでキャンプを口実に彼を誘ったのだが、こんな事になって少し落胆していた。
「甚平、そうガッカリしなさんなって。俺達は一般人としてあの川に行く。
 少しぐらいはキャンプ気分も味わえるだろうぜ」
ジョーは甚平の髪をクシャクシャに撫で回した。

科学忍者隊は素顔で潜伏し、テムテス川沿いにテントを立て始めた。
汚染物質が流されていると言う噂は近隣の街にも聞こえている為、キャンプ場にテントを張っている人々は極端に少なかった。
「竜、とにかく日が暮れない内にテントを張っちまおうぜ」
ジョーが竜に声を掛けた。
「おい、健!手伝えよ。俺が教えるから」
「ああ、解った…」
ジュンと並んで川面を見つめていた健が振り返った。
「今の処、異常は目視出来ないな…」
「そうね……」
「博士によると、異臭がするそうだ。すぐに解るだろうぜ!」
ジョーはテントを組み立てる手を休めずに言った。
「おいら、折角釣りをしようと張り切ってたのに、これじゃあ無理だね…」
「ああ、毒を喰らいたくなければ止めておけ。その内俺が本当のキャンプを体験させてやるよ」
「本当かい?ジョー!」
甚平が眼を輝かせた。
「甚平の年頃って、ジョーみたいなワイルドなお兄さんが欲しいのかもしれないわね…」
ジュンがしんみりと健に向かって言った。
「確かに俺はワイルドではないからな…」
健が微笑した。
「科学忍者隊のリーダーとして、凛として立派にやってるんだからそれでいいのよ。
 甚平だって、健を慕ってるの解るでしょ?」
「おい!早く手伝え!」
ジョーが怒鳴った。

この時、甚平とジョーの間に交わされた約束は、果たされる事が無かった。
任務が激化し、ジョーがあのような最期を遂げてしまったからである。
ジョーは約束を忘れていた訳ではなかった。
「甚平…。あの約束、なかなか果たせなくて悪いな…。でも忘れちゃあいねぇぜ」
2人になると、時折そんな言葉を甚平に聞かせていたのである。




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