『インフルエンザ』

「ん?」
ジョーはギャラクターの基地への潜入中に甚平の様子がおかしい事に気付いた。
いつも甚平と一緒に暮らしているジュンは、健と同行し、ジョー達とは別の場所から此処に侵入している。
竜はゴッドフェニックスで待機だ。
甚平はバイザー越しに見ても、顔が赤い。
眼が潤み、行動に機敏さが見られないし、時折咳もしている。
「甚平!どうした?熱でもあるんじゃねぇのか?」
「ううん、何ともないよ、ジョー」
甚平はか細い声でそう答えた。
今は先を急ぐ時だが、このまま連れて行っても足手纏いになるだけだし、甚平自身にも危険が及ぶ可能性が高い。
「健!聞こえるか?」
ジョーはブレスレットに向かって健に呼び掛けた。
『ジョー、どうした?何か発見したか?』
すぐに応答がある。
「甚平の奴、どうやら熱が高いらしい。このまま連れて行くのは危険だ。
 俺は一旦ゴッドフェニックスにこいつを連れて引き返す。
 すぐに戻って来るからジュンと2人で持ち堪(こた)えてくれるか?」
『甚平?大丈夫なの?今朝は何ともなかったのに…』
ジュンが心配する声が聞こえて来た。
「大方インフルエンザにでも罹ったんだろうぜ。孤児院に遊びに行ってたからな」
ジョーは甚平の身体を軽々と左腕1本で抱えた。
右手にはエアガンを構えて、慎重に目配りをしている。
『解った!敵に気付かれる可能性がある。気をつけろよ、ジョー』
健の答えを聞いて、ジョーは竜に呼び掛けた。
「竜!聞いてるか?俺が脱出口まで戻るから甚平を拾ってくれ!」
『ラジャー!』
ジョーは既に長い足でひらりと走り始めていた。
「ジョーの兄貴、おいら戻るの嫌だよ…」
甚平が朦朧とした意識の中、ジョーに声を掛けた。
「馬鹿野郎。具合の悪い時ぐらい大人しくしていやがれ!」
折角此処まで侵入して来たのだが、仕方がない。
とにかく甚平を竜に任せて急いで舞い戻るしかないのだ。

ジョーは風のように駆け抜けた。
しかし、それを許すようなギャラクターではない。
銃を構えた10人程の隊員に取り囲まれてしまった。
ジョーは甚平を通路の脇に下ろし、戦闘を開始した。
正確に敵の喉笛を狙って羽根手裏剣で仕留めて行く。
再び突入して来なければならないのだ。
最低限の体力消費で切り抜けたい。
肉体を使った闘いではなく、羽根手裏剣とエアガンだけでその場を凌いだ。
敵はどんどん増えて来る。
爆薬を仕掛けた弾丸をエアガンに仕掛けると敵に向けて発砲した。
敵がうろたえている間に、ジョーは隙を突いて甚平を抱え直し、素早く身を翻した。
(俺が発見されたって事は、健とジュンも敵さんに見つかって応戦しているに違いねぇ。
 さっさと竜に任せて戻らねぇと……)
規則正しいジョーの足音を追って来る者は居なくなった。

ジョーは潜入した基地の入口に辿り着いた。
大きな崖の上だ。
崖のすぐ下でゴッドフェニックスが待機していた。
ジョーはひらっと軽く飛び降りると、ドームの上に甚平を下ろし、竜に短く「頼んだぜ!」と通信すると、再び崖の上へと跳躍した。
待ち構えていたギャラクターの隊員達に今度は遠慮なく、蹴りやパンチを次々に決めながら進路を開いて行く。
バタバタと敵が倒れて行く中を、ジョーは華麗に駆け抜けた。
ジョーが通り抜けた後には、何十人もの敵が折り重なって倒れていた。

3人の活躍で、敵基地を爆破して無事に三日月珊瑚礁の基地へと帰還した。
甚平はやはりジョーの診立て通り、インフルエンザに罹っていた。
「ジョーの兄貴…、面目ない。おいら…」
暫く見舞いを自重していたが、2日後になって病床に見舞うと、甚平は心から申し訳なさそうな顔でジョーに詫びた。
ジョーはまだ微熱の残る甚平の頭を撫でた。
「気にするなって!作戦は成功したんだぜ。
 それより早く良くならねぇとジュンが『スナックジュン』の営業が出来ないってぼやいてたぜ」
「お姉ちゃんはおいらが居ないとからっきし駄目だからなぁ…。
 ジョーの兄貴、お姉ちゃんに料理を教えてやってくれよ」
「何言ってやがる?何で俺が…」
ジョーはそこまで言い掛けて、ゴホゴホと激しく咳き込んでしまった。
「ジョー、まさかおいらのインフルエンザが移ったんじゃ?」
「へっ!そんなガキの罹る病気になんぞ…」
ゴホゴホ。
「大人の患者だって沢山居るよ」
「俺には病気なんて寄って来や…」
ハ〜ックション!
ジョーの言葉はくしゃみで遮られた。
「ほ〜ら見ろ!」
甚平がジョーを指差して笑った。
(笑いごっちゃねぇ!)
ジョーを急激に寒気が襲って来た。




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