『自身の投影』

レッドインパルスの隊長を亡くした後の健の荒れようはとても見てはいられなかった。
ジョーは自分自身を見ているようで嫌気がしており、苛立ちを隠すのに苦労しなければならなかった。
本来であれば、彼はその苛立ちをそのまま健にぶつけるのであろうが、南部博士にサブリーダーとしていろいろと言い含められていた。
(健の精神面のフォローなんて俺の柄じゃねぇのさ!俺がストッパー役だなんて、役割が逆だぜ)
ジョーは内心そう思っていたが、博士は幼い頃から共に過ごし、同じような体験をしているジョーがいつか健の心を溶かすと考えたようだ。
確かにジョーは科学忍者隊のサブリーダーだ。
しかし、自分には『女房役』は似合わないと思っていたし、リーダーやメンバーをサポートする事はあっても、彼は彼であり、自分を殺す事は出来なかった。
それでもジョーは父親の死を目の当たりにしてまだ日が浅い健に対して、努めてその苛立ちを見せないようにしていたのである。
(健!しっかりしやがれ!克服するのはおめぇ自身だ。
 俺達仲間は陰から支えてやる事しか出来ねぇ…)
科学忍者隊のヒール役は自分1人で充分だ、と彼は思った。
(おめぇはまだいい。親父さんは地球を救うと言う立派な大義名分の下に散ったんだ…。
 だが、俺は両親が何故殺されたのかさえ、覚えていねぇ。記憶が途切れているからな。
 おめぇと俺とでは、ギャラクターに対する憎しみのベクトルが違うのさ……)
健は今日も『スナックジュン』に現われない。
ジョーは他の3人と距離を置いてテーブル席に着き、物思いに耽っていた。
(健…。お前は真っ直ぐに前を向いて歩いて行け。
 それが科学忍者隊のリーダーとしてのおめぇの立ち位置だ。
 俺はサブリーダーとしておめぇの影になって、いつも背中合わせで居てやる。
 だから、おめぇは自分の名前のように健やかに明るい場所を歩いて行くがいい。
 いつだって凛としていろ……)
ジョーがいくら健に感情をぶつけた処で、普段から皮肉屋な彼に、心を閉ざした健が反応する筈もなかった。
(俺だって本当はおめぇと一緒に暴走してぇ位なんだぜ。
 だが、リーダーとサブリーダーが同時に暴走すればどうなる?科学忍者隊はおしめぇさ!
 いくらジュンがしっかりしているからと言って、どうにもならねぇだろうぜ……。
 今は俺が自分を抑え込んでおくしかねぇのさ。俺自身を殺さねぇ程度にな)
彼はいつまでも考えを巡らせていたが、唇を噛んで荒々しく席を立つと、健の飛行場に向かう事にした。
それが此処数日の彼の日課となっていた。
ジュン達には健が自ら姿を見せるまでそっとしておくように、と言っていたのだが、彼自身は健が気掛かりで気配を消してそっと様子を窺っていたのだ。

ジョーは自分まで暴走すまい、と柄にもなく自分を制御しようと苦労していたが、何と後日の任務でジュンが健に辛辣な言葉を浴びせた事が切っ掛けとなり、健はリーダーの顔を取り戻した。
(まさか、ジュンが健を『卑怯者』呼ばわりするとは思わなかったぜ。
 ジュンの奴、いつも何かあると健を庇う癖によ。
 だが、そんなジュンの言葉だからこそ、健の胸に突き刺さったに違いねぇ…)
ジョーは三日月基地の一角で海底の魚の群れを眺め乍らホッと一息ついた。
南部博士に報告に行くまでもあるまい。
今日の任務完遂の報告をした健の眼を見れば、彼がついに乗り越えたのだと言う事はとうに解っている筈だ。
近い内にまた博士を車で送迎する機会があるだろう。
そのついでにジュンの言葉が健を立ち直らせたと言う事実を淡々と告げればいい。
(結局、俺には何も出来なかったな。ジュンに救われたぜ…)
ジョーは自嘲的に唇を曲げるのだった。




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