『組み手』

健が風邪で寝込んで戦列に復帰した時、彼はジョーに組み手の相手を頼んだ。
お互いに武器は使わず、生身で本気の戦闘を行なおうと言うのだ。
ジョーとは体格も近く、戦闘能力が拮抗しており、健は自分の訓練の相手には彼が適任だと考えた。
勿論、ジョーに異存はない。
「望む処だ」
2つ返事で引き受けた。
「1週間近く休んでしまった。手加減は無しで頼む」
「おう!」
2人は早速訓練室に入った。
サブの管理室で南部博士を始めとした忍者隊の他の3人が見守っている。
「バードスタイルにならんでいいんかいのう?博士…」
竜が心配そうに呟いた。
「あれではお互いのダメージが大きいわ…」
「そうだよ…。兄貴、病み上がりなのに」
「健は科学忍者隊のリーダーとして、早く戦闘の勘を取り戻したいのだよ。
 それは諸君も良く解るだろう。
 ジョーも脳に傷を受けて戦列を離れた時はそうだったのを覚えていないか?」
「そうですね。確かにジョーも生身で戦闘室に入って、1人で黙々と…」
ジュンの表情が曇った。
「まずは身体能力の勘を取り戻し、それからバードスタイルになって、更にそれに磨きを掛ける。
 そうやって、ジョーは自分の戦闘力をすぐに取り戻した。
 健もその時の事を考えての事だろうから、このままやらせてみたまえ。
 幸い風邪は既に癒えている」
南部は忙しいのか、そう言い置いて出て行った。

「良し!健、行くぜ!」
戦闘訓練と言う意味では声を掛けずに殴り掛かるべきだったのかもしれないが、ジョーにはやはり健への気遣いがあった。
「構わんから遠慮なく攻撃してくれ」
「よぉし!」
ジョーは演舞のように華麗な動きで、長い足を繰り出した。
鋭いキックが風を呼び、健に襲い掛かる。
健はそれを左腕で交わしたが、ジョーの脚力はなかなかの物で、腕にジーンと痺れが走った。
しかし、ジョーはそのままでは動きを止めない。
第二第三の攻撃を仕掛ける。
健の鳩尾にパンチを入れようとした時、健は身を翻して飛び退った。
しかし、ジョーは当然のその動きを読んでおり、素早く跳躍していた。
空中でお互いの利き腕の拳がぶつかり合う。
そのまま2人は後方に身を転じて、着地した。
「健!もう殆ど勘を取り戻してるじゃねぇか?」
ジョーがニッと笑った。
「いやいや…まだまだだ。行くぜ、ジョー」
今度は健が仕掛けて来た。
ジョーの足を払おうとしたが、ジョーはそれを察知してジャンプし、健の背中に蹴りをお見舞いした。
……と、見えたが、健はそれを交わして壁に飛んでいた。
反転して壁を蹴り、ジョーに向かって来る。
ジョーは健に投げ飛ばされたが難なく着地する。
彼の足が地に着いていたのは一瞬の事だった。
すぐに地を蹴り、健にぶつかるように走って行くと、その膝蹴りが健の腹に見事に決まった。
しかし、健もなかなか打たれ強い。
すかさずジョーの顎にパンチを食い込ませて来る。
2人は無言で、そして無心になって組み手を続けた。

1時間程経った後、ジュンが訓練室に入って来た。
「そろそろブレイクタイムにしたら?体力を残しておかないと、急な出動の時に持たないわよ」
2人に缶コーヒーを投げ渡す。
それをパシっと正確に受け取った2人のTシャツは汗で肌にピッタリと張り付いていた。
筋肉の形が綺麗に浮き出ている。
しかし、それでも全く息切れをしていない。
屈強な2人だ。
ジュンはそれぞれにタオルを渡した。
「休憩が済んだら、バードスタイルになってもう1回頼めるか?ジョー」
「当たりめぇだぜ。とことん付き合ってやる」
ジョーがまたニヤリと笑った。
「もう!2人共、生き生きとしてるんだから…」
ジュンが嬉しそうに微笑んだ。

※このストーリーは、057『鬼の霍乱』の続きに当たります。




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