『疼痛』

「くそぅ!まだ身体が疼きやがるぜ…」
トレーラーハウスに戻ったジョーは思わず独り言を言っていた。
昨日の任務は彼にとって過酷その物だった。
敵の電気ショック攻撃に不意打ちを受け立ち往生している処に、意志を持って動くロボットの蔦で全身を雁字搦めにされて仰向けに宙に浮かび、激しく身体を締め付けられたのだ。
蔦は強く身体に喰い込み、ジョーを痛め付けた。
健のブーメランで呪縛から逃れる事が出来たが、ジョーは受身を取れない程衰弱しており、そのまま地面へと叩き付けられてしまった。
彼はすぐさま起き上がりはしたが、さすがに息を切らし暫くの間激しく肩を上下させていなければならなかった。
「みんな!電気ショックに気をつけろ!」
健はジョーを背中に庇うように立ち、肉弾戦を繰り広げていた。
まだ闘いは終わっていなかった。
(足手纏いは御免だぜ…!)
ジョーは自身に喝を入れて立ち上がり、全身の痛みを堪(こら)えながら格闘に加わった。
肉弾戦にけりを付けると忍者隊は素早くゴッドフェニックスに取って返し、ジョーが超バードミサイルで敵の鉄獣メカを破壊して、少しだけ溜飲を下げた。
闘い終わって基地に向かい始めると、気が抜けたのか彼は自席でぐったりとしてしまった。
「ジョー!大丈夫?」
ジュンが気遣って来る。
「ああ…。不覚を取った。だが、少し休めばすぐに回復するだろうぜ。心配するな」

基地に戻ると、健から報告を受けた南部博士が「ジョー、医務室へ来たまえ。君の身体を診る」と、彼に声を掛けた。
素直に医務室へ付いて行き、博士の前の丸椅子に座ると、シャツを脱ぐように指示をされる。
痛みを堪えて、Tシャツを脱ぐ。
その下から現われた均整の取れた筋肉質の細い身体に、無数の赤い痣が浮き上がっていて、炎症を起こし、丁度蔦で締め付けられたそのままの形に腫れ上がっていた。
胸や背中、腕の至る所が赤黒くなっている。
恐らくは足も同様だろう。
博士がそっと彼の腕を触ると、ジョーはそれだけで思わず呻き声を発してしまった。
「これは酷い…。電気ショックでの消耗も酷いようだが、これでは全身に疼痛が走っているだろう」
博士が眉を顰(ひそ)めた。
「バードスタイルで無かったら、ジョー、君の身体はその蔦に押し潰されていたかもしれん…」
「なぁに、大丈夫ですよ。もうシャツを着てもいいですか?」
ジョーは脱いだTシャツに手を伸ばした。
「疼痛と炎症を抑える薬を出しておこう。必ず飲むように。
 それから、万が一発熱した場合の薬も出しておく。
 今日は此処で休んで行きたまえ。食事は後で持って来させる」
「いえ…。明日はレースが…」
「その身体でレースに出場するのは無理だ。みすみす事故を起こしたいのかね?
 明日は自重したまえ。君の身体は君1人の物ではない」
「……解りました」
ジョーは悔しさを押し隠して短く答えた。
その晩は博士が案じた通り発熱があり、出された食事を口にする事が出来なかった。
一晩点滴が施された。
そうしてジョーの若い肉体と強い精神力により、彼の身体は驚異的な速さで回復し、翌日の夕方には帰宅を許されたのであった。
南部博士は基地の職員に大型潜水艦を出すように指示をし、ジョーのG−2号機は地上まで運ばれた。

ジョーはベッドの上にTシャツを脱ぎ捨てた。
昨日はシャワーを浴びられなかったので、潔癖症の彼はすぐにその支度に掛かった。
小さなシャワールームに入ると、温(ぬる)めのお湯を全身に掛け、少しずつ自分の好みの熱めの温度へと上げて行く。
改めて自分の身体を見る。
腫れは既に引いていた。
しかし、痛々しい痣はまだ全身にその卑劣な痕跡を留めていた。
博士には黙っていたが、電気ショックによる痺れもまだ少し残っていた。
痛みとその痺れで動きに少しだけ不自由がある。
ジョーは身体を動かす度に痛みを覚えたが、その肉体に残る傷跡も汗と共に洗い流したいと思った。
髪も身体も丁寧に洗った。
彼の筋肉を纏った芸術的とも言えるその肉体に白い泡が滑って行く。
人前で晒す事は無いが、それは何ともセクシーな姿だった。
身体が温まって来ると、全身の痣が悲鳴を上げた。
どくん、どくんと疼くように痛む。
ジョーはその顔を歪めたが、唇をキッと結んで耐えた。
その鍛え上げられた肉体はすぐに完治の方向に向かうに違いない。
(とにかく何か適当に腹に入れて、眠ってしまうのが一番だぜ)
ジョーはバスタオルに手を伸ばした。

上半身裸のままで冷蔵庫を物色していると、ノックの音がした。
「ジョー。帰っているんだろう?」
思った通り、健の声がした。
ジョーは傷跡を見せたくなかったので急いで洗濯されたTシャツを着て、ドアを開けた。
「調子はどうだ?大丈夫か?」
上がり込むと、健は早速その言葉を口にした。
「ああ。昨日は不覚を取っちまったぜ…」
ジョーが悔しそうに唇を歪ませる。
健が彼の腕を取った。
思わず呻きそうになるのを堪(こら)える。
腕に残る痣までは隠しようがなかった。
「昨日の今日で此処まで回復しただけでも大した物だ…」
健は呟いた。
「そうだ!南部博士に言われて差し入れを持って来たんだった!」
掌を叩くと、彼はビニール袋から綺麗な布に包まれた弁当箱を取り出した。
「テレサ婆さん手製の弁当だ。食べれば精が付くに違いない。
 これを食べてゆっくり休め。明日は博士から特別休暇が出ている」
健はジョーを休ませる為に早々に退出した。
「明日はこれを返しに博士の別荘まで走るか…」
ジョーはテレサ婆さんの面影を頭に浮かべながら呟いた。


※ぺたるさんとへいさんのご所望(?)で『萌え〜なジョー』を書いてみました。




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