『ダイエットの勧め・2』

「お……お、も、い……」
ジョーが呻いた。
爆風で吹き飛ばされた時に、仰向けのジョーの身体の上にはどっかりと竜の巨体が圧し掛かっていたのだ。
「この野郎、早くどけっ!野郎と引っ付いている趣味はねぇんだ!」
しかし、竜はまだ気を失っている。
周りにいた健達がジョーの声に気付いたのか起き上がり始めた。
「あ!ジョーの兄貴が竜の下敷きになって起き上がれないでやんの!」
甚平が指を差して笑い始めた。
「馬…鹿野郎!笑ってるんじゃねぇ。早くこいつを退(ど)けてくれ。窒息しそうだ!」
「ははは、さすがのジョーも、竜の重さは払い除けられないか…」
健が竜の肩を揺すった。
「あ…、あん?」
「竜、早く退いてやれ。ジョーが潰れてしまう」
ボーっとしていた竜が健の言葉で跳ね退(の)いた。
「すまん、ジョー」
「ジョー、大丈夫?」
ジュンが手を差し伸べて来た。
ジョーはその手を借りずに半身起き上がったが、息苦しさから肩で呼吸(いき)をしていた。
「ほ〜……、死ぬかと思ったぜ…」
闘いが終わって、ホッとしたのかジョーを除く全員が肩を揺すって笑った。
「くそぅ、笑いごっちゃねぇ!竜は『今日から』ダイエットだ!」
漸く立ち上がると、ジョーはわなわなと怒りに拳を震わせた。
「まずは俺と同じ訓練メニューをこなしやがれ!」
「ジョー、元気じゃないか?任務のすぐ後に訓練を受けようとはな」
健がニヤリと笑った。
「健、リーダーとしてお前も付き合え。2対1だ」
「2対1ってまさか、おらが1の方かえ?」
「当たりめぇだろう?それ位しなきゃ痩せねぇぜ。
 ジュンと甚平はこいつのカロリーコントロールな」
ジョーは役割分担まで始める始末だ。
余程重かったに違いない、と健は込み上げて来る笑いを必死に噛み殺した。

ゴッドフェニックスに戻って帰還の途に付いてからも、その問答は続いていた。
「まずは目標体重を公称の80kgに設定だ」
「ジョー、おらは今、80kgなんだってば!」
「そんな訳があるか?絶対に100kgはあるに決まってる!
 80kgぐれぇの重さに耐えられねぇ俺じゃねぇ!」
「まあ、竜の重さに関しては俺も同感だな。
 敏捷な動きを確保しておける位には脂肪を落として貰わないと…」
リーダーの意を得たジョーは嬉しそうに、
「じゃあ、全員で竜のダイエット作戦開始だぜ!」
と音頭を取った。

「……博士。基礎代謝を良くするにはどうしたらいいんですかね?」
南部博士を別荘に送る車の中でジョーは訊いた。
「何?君はそれ以上代謝を上げる必要はない。寧ろ、痩せ過ぎだ。
 君の身長から考えれば、せめて10kg位は太った方がいい。
 いいかね?18歳男性の平均身長は170.7cm、平均体重は64kgだ。
 君はそれよりも軽いのだぞ。10kg太っても185cmの君には足りない位だ。
 健もそうだが、君達はまるで欠食児童のように痩せ過ぎている。
 筋肉が付いているだけマシだが……」
南部が顎に手を当てた。
「お…俺じゃありません。竜の事ですよ。食事制限をしても運動をさせても痩せないんです」
「甚平から聞いている。竜の下敷きになって随分苦しかったようだね」
南部が口角を少しだけ上げた。
笑いを堪えているのかもしれない。
「しかし、竜の怪力は捨てたものではない。
 彼を無理に痩せさせた処で、膂力まで失ってしまっては元も子もないからね」
「はあ…」
「適材適所と言う事だよ、ジョー。
 それに、竜はヨットハーバーに戻れば自由に好きな物を食べられるだろうからね」
「あ…あいつ……。隠れて喰っていやがったのか!」
「まあ、諦めたまえ。ある程度の年になったら生活習慣病の危惧も出て来るので痩せさせなければならないだろうが、10代の内は大丈夫だろう」
「そうでしょうか?糖尿病とか高脂血症とか、脂肪肝とか…本当に大丈夫なんですかね?」
「定期健診では正常範囲だった筈だが?
 それにしても、随分と生活習慣病に詳しくなったではないか?」
「えっ?それは……、いや、科学忍者隊からは1人も欠けさせる訳には行きませんから」
「竜を心配して調べたと言う訳かね?」
今度は南部も声を上げて笑った。
「君の気持ちは良く解った。私も気を付けておこう。
 竜の血液検査だけは君達よりも回数を増やして経過を見る事にしよう。
 ああ見えても鍛えられているから、いくら待機が多いとは言っても運動量としては適切だと思うがね」
南部の別荘の手前のくねくねとした道が見えて来た。
「テレサが君に栄養を付けようと腕によりを掛けて料理を用意している。
 君も夕食を食べて行きたまえ」
「俺は太らなくていいんですよ。レーサーとしては体重は軽い方がいいんです。
 それに『欠食児童』なのはどちらかと言えば健の方ですよ。
 金がないから『スナックジュン』でツケで喰うか、家ではシリアルばかり喰ってやがるんです。
 あいつはガッチャマンでいる時以外は、生活能力もなくて意外と頼りにならない奴ですよ」
ジョーは笑い乍らそう言うと、照明の無い暗いカーブを正確にステアリングを切りながら進んで行った。




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