『愚弄』

ジョーの眉間に皺が寄っていた。
「何だって?その言い草は許せねぇぜ!」
彼が憤りをぶつけている相手はベルク・カッツェだ。
「ガッチャマンは…、大鷲の健はてめぇなんかに殺られるような男(やつ)じゃねぇ!
 いつでも冷静で戦略的で、科学忍者隊を纏めて来たリーダーだ。
 あいつを愚弄する事はこの俺が許さねぇっ!」
「そうだそうだ!兄貴が『負け犬』だって?おいらだって許さないぞ!」
ジョーの横で、甚平も彼に同調していた。
身長差が最大の凸凹コンビが、腕を組んで両脚を開いて立つ全く同じポーズをして仲良く並んでいるのが何とも微笑ましいのだが、此処は敵の懐の中だ。
2人の横にはジュンが居て、彼女が心配そうに見上げる先には壁に磔状態にされた健がいた。
両手首を手錠と鎖で拘束され、吊り上げられている。
「健の奴…。親父さんを失って焦っているのは解るが暴走が過ぎたな…」
ジョーが舌打ち混じりに呟いた。
「ジュン、甚平、いいか。俺がカッツェの奴を引き付けておくからタイミングを計って健を救出してくれ」
2人に小声で囁くと、ジョーはエアガンを取り出して跳躍した。
それと同時にエアガンからは三日月型の小道具が飛び出し、カッツェの喉元に当たった。
「今だ!行けっ!」
ジョーはジュンと甚平に指示を出した。
「ラジャー!」
2人はすぐさま走り出した。
カッツェがうろたえている隙に、敵兵にも一瞬の動揺が見られた。
その間に2人に行動を起こさせたのだ。
ジョーは当然そのままでは終わらせない。
カッツェの喉元を左手で押さえながら、エアガンを腰に戻し、羽根手裏剣を敵兵に向けて雨あられと降らせて行く。
それが確実に当たって行く様は最早芸術と言ってもいい。
投擲(とうてき)武器の扱いが得意な彼ならではの闘い方である。
ジョーは左手に力を込めた。
マスクのせいで表情は解らないが、カッツェの桃色の唇が苦しげに、そして恐怖に戦慄(わなな)いていた。
そのまま右の拳で鳩尾にパンチを喰い込ませる。
ジョーのパンチは重い。
ベルク・カッツェはその勢いで身体毎、数メートルは突き飛ばされた。
胸倉を手中にして更に殴ろうとした時、カッツェが
「おのれ、この猪口才な小童めが!」
と叫んだ。
どこから出したのが超小型爆弾を右手に持っている。
「ジョー!危ない!」
健の声を聞いて、ジョーは素早く飛び退(すさ)り、マントで防御しながら身を伏せた。
健は無事に2人に助け出されたのだ。
ジョーは間一髪、爆発に巻き込まれるのを逃れる事が出来た。
爆風が収まると、もうカッツェの姿はどこにも無い。
「くそぅ。カッツェめ!相変わらず逃げ足の早い奴だぜ…」
悔しかった。
1度はこの左手に憎々しいあいつの喉を掴んでいたのだから…。
ブレスレットから竜の声が聞こえて来る。
『カッツェの奴が円盤で飛び出して行ったぞいっ!』
「よし、いつもの事だ。此処は自爆装置が起動されているに違いない。脱出するぞ!」
健が叫んだ。

「みんな、俺が悪かった。何度反省しても同じ事を繰り返してしまう…。
 すまない…。どうにも止められなくなってしまうんだ」
ゴッドフェニックスに戻ると健が素直に謝った。
「その熱くなる気持ちは解らねぇでもない。俺だって同じ事をしちまう事もある。
 だがよ。後先考えずに飛び出すのだけはやめろよな。
 ジュンの気持ちを考えた事があるのか?どれだけ心配したと思っていやがるんだ?」
ジョーは健のボディーに1発拳をめり込ませた。
健は床に吹っ飛んだ。
「ジョー!やめて!」
ジュンが止めに入ったが、
「いや…。いいんだ…。俺は科学忍者隊のリーダーとして、やるべき事を為さなかった。
 その為にジョーは囮になったんだ。すまなかった、ジョー」
健は起き上がるとその青い瞳でジョーを真っ直ぐに見た。
もうその瞳にはすっかりいつものリーダーの色が戻っていた。
「解りゃあいいんだよ」
ジョーは健に向かって右手を差し出した。
健は素直にその手に捕まって立ち上がった。




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