『デリバリーパーティー』

ジョーは器用に林檎を剥いて行く。
繋がった皮が同じ厚みのまま長く長く伸びて行った。
「ジョー。お前包丁も使えるんだな」
健が『スナックジュン』のカウンターに肘を付いて言った。
店には『CLOSED』の看板を出しているが、ジュン以外の4人は此処に揃っていた。
「当たりめぇだぜ。お前とは違うのさ」
「ふ〜ん、兄貴、武器を操れるんだから、包丁捌きだって行けるだろ?」
ジョーの横には甚平。
2人共カウンターの中にいる。
「いや、こいつはからっきし駄目なんだ」
ジョーが2つ目の林檎の皮を剥き始めた。
「で、ジョーは何を作ってるんじゃい?」
「アップルキャラメルケーキさ」
と竜の質問に答え乍ら、剥き終わった林檎を薄くスライスし始めた。
「健、そろそろ博士の別荘にジュンを迎えに行ってやれよ」
ジョーが顔を上げて健を見た。
「いや。昨日ジュンに頼まれてG−3号に乗って行って、置いて来たんだ。
 勝手に帰って来ると思うぜ」
「何だ、気が利かねぇ奴だな…」
ジョーは呆れながら、スイーツ作りに没頭し始めた。
「ジョーの兄貴。お姉ちゃんよりずっと役に立つよ。これからは時々手伝ってくんない?」
「馬〜鹿!俺はレースで忙しいのさ。それに客商売に向いてねぇのは良く解ってるだろ?」
「それもそうかぁ…」
「本当は林檎は1個で充分なんだがな。
 竜がペロッと片付けるだろうから、2倍の分量で作ってやるぜ」
ジョーは林檎のスライスを終え、フライパンに水と砂糖を入れてキャラメルソースを作り始めた。
「ジョー。それ、イタリア料理なのか?」
健はジョーが幼い頃に両親が不在がちで、ある程度の簡単な料理を仕込まれていた事は知っていた。
しかし、彼の包丁捌きの見事さには唸ってしまった。
眼の前で見るのは初めてだったかもしれない。
もしかしたら、料理店でバイトが出来るのではないか、とまで健は思った。
「包丁よりはナイフの方が扱い易いんだがね…」
ジョーがニヤリと笑った。
キャラメルソースを火から上げると、今度は生地作りに入っていた。
「ジュンも風邪で弱っちまったろうから、こう言った口に入り易い喰い物を喰わせてやるといいのさ」
「おいら良く見てレシピを覚えておくよ」
「ああ、そうしておくがいいぜ」
「それにしてもイタリア料理でもないのに、こんな菓子作りが良く出来るもんじゃのう」
「まだ健が来る前だったなぁ…。博士の別荘に引き取られて2年位経っていたか…。
 俺が風邪で寝込んだ事があって、テレサ婆さんが俺の為に作ってくれたのが、このケーキさ…」
ジョーの眼が懐かしげに遠くを見た。
「旨かったぜ…。それに凄く嬉しかったのを覚えてる。
 早速作り方を教えて欲しい、って頼んでな。俺に丁寧に教えてくれたっけ…。
 南部博士に差し入れたら喜んでくれたな」
「それなら博士にも持って行って上げたら?」
ジュンが店の表から入って来た。
「あ、お帰り!お姉ちゃん!」
「ジョーには世話を掛けてしまったみたいね。有難う」
ジュンはもうすっかり元気な様子だ。
カウンターの中に2人入っているので、ジュンはカウンター席に座った。
甚平が氷を入れたオレンジジュースをジュンの前に差し出した。
「もう大丈夫そうだな、ジュン」
健がジュンを見つめた。
「ええ。お陰様で。ついでにメディカルチェックも受けたけど、どこも悪い所は無いってお墨付きを戴いたわ」
「良かったのう、ジュン」
「みんなにも迷惑を掛けたわね」
「いや、幸いギャラクターが大人しくしていてくれたんでね。
 パトロール以外には出動が無かった。俺達も運が良かったぜ」
カウンターの中からジョーが言った。
彼はオーブンに丸く象った生地を入れようとしている。
「あら?いい香り…」
「バターとバニラエッセンスの匂いだろ?飲食店を経営してるんだから、それ位嗅ぎ分けろよな」
ジョーが呟いた。
ジュンが元気になったからこそ、言える台詞である。
「ジョー。それはいつ出来上がるんじゃい?」
待ち切れない様子の竜。
「オーブンに40分程掛けて、それから荒熱を取る。
 そのままでも食べられるが、冷蔵庫で冷やした方が旨いんだ。
 まあ、夜まで待つんだな。ジュンの快気祝いでもしてやろうぜ」
ジョーは手を洗って、カウンターから出て来た。
「甚平、後は頼んだぜ」
「あら、出掛けるの?」
「博士の護衛兼運転手」
「ジョーものんびり休んでもいられないのぅ…」
「車での移動が多いから、仕方ねぇだろ?夕方にはまた来れるさ。
 甚平、手伝ってやるから今日は豪勢にしようぜ。
 イタリア料理でも良ければ、俺が作ってやる。ジュンは今日1日ゆっくりしてろ」
「博士も来れないかしら?ジョーのケーキもあるし…」
「いつもの通り忙しいんじゃねぇのか?博士は最終的には三日月基地に戻るみてぇだぜ。
 俺は陸上の移動だけを頼まれていて、博士は職員が運転する水陸両用車に乗り換える予定になっている。
 博士もパーティーに巻き込むのなら、三日月基地にデリバリーしてもいいかもしれねぇな」
「あ!それいい!みんなで押し掛けちゃおうよ!おいら今から準備しておくよ」

その日、約束通りに夕方には戻って来たジョーが甚平と共に料理を作り、タッパーに詰めた心尽くしの物と、アップルキャラメルケーキがゴッドフェニックスによって三日月基地へと運ばれた。




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