リレー小説纏め◆Scene2(仮題)


◆◆<1>真木野聖◆◆
朝の陽射しが暖かだった。
トレーラーハウスの中で気持ちの良い目覚めを迎えたジョーは、久し振りの熟睡感を噛み締めていた。
昨日の任務は過酷だった。
その疲れも良く眠った事で充分に癒えていた。
若い身体は回復力も高いのである。
今日は昼までは休んでいても良い事になっている。
午後一番で基地に集合し、ゴッドフェニックスでパトロールに出掛ける予定だ。
トレーラーハウスの扉を開けてみる。
眩しく心地好い光が彼に降り注いだ。
良く晴れた空には雲ひとつなく、小鳥が「チチチ…」と啼いていた。
ジョーは大きく伸びをすると、目覚めのコーヒーを淹れようと中へと取って返した。

◆◆<2>朝倉 淳 様◆◆
 パーコレータを取り出し、が、
「チッ、コーヒー豆が切れてやがる」
 ここ数日は任務であっちこっち飛びまわっていた。
 昨夜、スナック・ジュンに寄って分けてもらおうと思っていたのだが。

◆◆<3>ピピナナ 様◆◆
「仕方がない。オレンジジュースにしとくか。」
ジョーは冷蔵庫の中へと手を伸ばした。
中には様々な食材が入っていた。ぎっしりとはいかないまでも、数日間は食べていける量だ。
いつも買い出しに行ける訳ではない。任務で行けない事もある。その時のための食材だ。
しかし、コーヒー豆だけはマズッた。
「まあ、そんな事もあるさ。」
ジョーはグラスになみなみとオレンジジュースを注ぐと、それを片手に朝食の食材を漁った。

◆◆<4>真木野聖◆◆
空腹時のオレンジジュースは腸(はらわた)に染み渡るような気がした。
程好い酸っぱさによる刺激が身体の隅々までを目覚めさせる感じだった。
ジョーは冷蔵庫からハムとチーズ、食料庫からクロワッサンを取り出した。
イタリア人は習慣として余り重い朝食は摂らない。
彼にも両親のその習慣が根付いていた。
南部博士の別荘に引き取られた時も、朝食をなかなか食べない子供だったので、周りから心配されたものだが、博士がその習慣の違いを説明してくれ、周囲もやがて納得した。

◆◆<5>ピピナナ 様◆◆
ジョーはハムとチーズを薄くスライスするとクロワッサンに挟んだ。これなら喉を通りそうだ。朝は簡単な食事でいい。

ジョーがクロワッサンサンドを食べ終わり、オレンジジュースの最後の一口を口に含んだところでブレスレットが鳴った。
スクランブルではない。
「ジョーの兄貴ぃ…。」
甚平だった。何ともしょげた声を出している。
「どうした。ブレスレットを電話代わりに使うんじゃねえ。」
ジョーは甚平を軽くたしなめた。
「おいらジョーの兄貴に相談があるんだ。」

◆◆<6>真木野聖◆◆
「で?店に来いってか?」
『ううん。お姉ちゃんには聞かせたくないんだ。
 実はトレーラーの前に来てるんだけど、いいかな?』
「出掛ける支度をしながらで良けりゃ構わねぇぜ。
 開いてるから入って来な」
ジョーはそうブレスレットに告げると、皿とコップを片付け始めた。
まだTシャツも着ていないし、歯磨きも髭剃りも済ませていなかった。
だが、まあ、甚平ならいいだろう。
遠慮がちにノックの音がして、甚平が入って来た。

◆◆<7>ピピナナ 様◆◆
「ごめんよ。朝早くから。」
甚平は上目遣いでジョーを見上げた。
「いいってことよ。おめえこそ早くからご苦労な話だ。」
ジョーは甚平にベッドに座るようすすめた。自分は丸椅子に座ると話を促した。
「で?」
「うん…。」
まだ甚平はいいあぐねているらしい。
だが意を決したようにジョーを見ると話を切り出した。
「ジョーの兄貴。女の子にモテるにはどうしたらいい?」
ジョーは丸椅子から落ちそうになった。
「何で俺に聞く…?」

◆◆<8>朝倉 淳 様◆◆
「・・・他に聞ける人がいる?」
 ま・・そうかな。
「で、モテたいって1人の女の子にか?それとも不特定多数の子にか?」
「フトク・・?」
「あ、いや・・すまねえ。ええと・・・」
 自慢ではないが、ジョーは人に色々説明できるほど弁が立つわけではない。
「好きな子でもできたのかよ」

◆◆<8>真木野聖◆◆
「そうじゃないんだ。
 でも、ジョーの兄貴みたいにチョコレートを沢山貰いたいなぁ、って…」
「何だい、そりゃ?」
「だって、男の価値はチョコレートの数で決まるって竜がさぁ…」
「けっ!おめぇそんな事、本気にしてるのかよ?!」
ジョーは時間を割いてやった事が腹立たしくなって来た。
長い足で丸椅子に跨り直すと、ジョーは言い含めるように言った。
「男の価値はなぁ。そんなもんで決まるんじゃねえ!此処だよ、此処!」
ジョーは甚平の胸の辺りに手を当てた。
「胸?男なのに?」
「馬鹿!中身だよ、中身!男はな。黙っていても此処の出来次第で女が寄って来る」
「ここのできしだい、って?もっと解るように説明してよ!」
ジョーは頭を抱えた。

◆◆<10>ピピナナ 様◆◆
「あのなあ…。」
どう説明すればいい。甚平に解るように何て言えばいい。
「とうしたのさ、ジョー?」
甚平は目を輝かせてジョーの説明を待っている。
「甚平、女の子はみんな男の子に優しくされたいんだ。解るな?」
「うん。」
「でな、その男の子がよ、女の子に対してイジワルな態度を取ったら女の子はどう思う?」
「そりゃ、悲しいよね。」
「それだ!」
ジョーは指をパチンと鳴らした。

◆◆<11>真木野聖◆◆
「おめぇだったら、女の子にそう言う事をするか?」
「…しないよ」
「だろ?男の強さと優しさに女は惚れる。
 哀しい思いをさせなければいい」
「でも、ジョーの兄貴はさせてるんでしょ?」
ジョーは甚平の洞察力にすっかり参った。
「このマセガキが!」
軽く甚平の額を小突いた。
「俺は今は女よりギャラクターを斃す事に集中したいだけさ。
 甚平も深入りをしちゃあいけねぇって事は解ってるんだろ?」
「うん。解ってはいるつもりなんだけど…」
「解ってりゃいいさ」
ジョーは丸椅子から立ち上がり、外出の準備を始めた。
「おい、甚平。午後からパトロールだぜ。
 こんな処にいつまでもいたらジュンがやきもきするだろ?」
「あっ!!」
甚平が真っ青になった。

◆◆<12>ピピナナ 様◆◆
「でも、今日はいいんだ。夕べはお姉ちゃんの好きな『デーモン5』のライブがあって、きっと朝寝坊する筈だから。」
そうか。そう言えば、そう言っていた。パトロールがある日じゃなくてよかったと…。
「で、鬼のいぬ間に来たって訳か。」
甚平は照れた様に笑った。
「パトロールまで、まだ時間がある。甚平、どこか行くか?」
「本当?!」
甚平の顔が輝いた。

◆◆<13>真木野聖◆◆
「ジョーの取っておきの場所がいいな。
 おいら、普段ジョーの兄貴がどんな物を見ているのか知ってみたい」
「おいおい。俺の取って置きの場所と言ったら…」
甚平は眼を輝かせた。
「取っておきの場所と言ったら?」
「……サーキットに決まってるじゃねぇか?
 つまらねぇだろ?」
「ええ〜?もっと他にあるんじゃないの?
 1人になりたい時に行く場所とかさぁ」
ジョーは呆れた顔をして見せ、それから瞳を伏せた。
「そう言う場所はな。心に仕舞っておくもんだ…。
 大切な人にだけ見せるのさ」
甚平は何故かドキリとした。
ジョーの瞳が一瞬潤んだように見えたからだった。
だがそれは気のせいだったようで、顔を上げたジョーの瞳は濡れてはいなかった。

◆◆<14>ピピナナ 様◆◆
「それじゃ、こうしよう。」
ジョーが甚平に提案した。
「さっきの続きだ。
男を磨く場所ってのは、どうだ。」
甚平の顔が再び輝いた。
「男を磨く場所?!」
興味津々な様子で、身を乗り出してくる。
「まあまあ…。」
ジョーはそれを制して、勿体ぶって言った。
「それには準備がいる。」

◆◆<15>朝倉 淳 様◆◆
「タキシードでもいるの?」
「・・・おまえ、どこに行こうとしてる?」

◆◆<16>真木野聖◆◆
「着飾ったお姉さん達が沢山いる社交パーティーみたいな場所かなぁ、って」
「馬鹿。真っ昼間からそんな事をやってる暇な奴はいねぇよ。
 どこぞの王室でもあるまいし」
ジョーが呟いた時、ブレスレットから南部博士の呼び出しがあった。
「こちらG−2号どうぞ」
「こちらG−4号どうぞ」
『ほう…。珍しい組み合わせだね。まあいい。
 ケイトリア王室の社交パーティーに賊が押し入って金品を奪い取って行った。
 どうやらギャラクターらしい』
「何ですって!?」
今の話の流れの後にこの話だったので、さすがのジョーも一瞬まさか、と思った。
だが南部博士が冗談を言う筈がなかった。

◆◆<17>朝倉 淳 様◆◆
「王室のパーティだって。やっぱりタキシードがいるじゃん」
「バードスタイルの上から着るつもりか?」
軽口を叩きながらも2人は出動の準備に入った。

◆◆<18>ピピナナ 様◆◆
三日月珊瑚礁に着くと、南部博士は待ちかねていた。
「遅い!健達はとっくに集合しているぞ!」
「ひえ〜、おっかない…。」
甚平が肩を竦めた。
「あまりに君達が遅いので、健達には先に出動してもらった。」
「ちっ。」
ジョーは博士に聞こえないように舌打ちした。
が、聞き咎められた。
「ジョー、何だ。その態度は。」
南部博士はいよいよお冠だ。
「こうなたら、奥の手だ…。」
ジョーは密かに甚平と目を合わせた。

◆◆<19>真木野聖◆◆
「奥の手って何だよ、ジョー…」
「G−4号機をG−2号機で牽引する」
「えっ?変身後でも出来るんだぁ!」
甚平が大仰に驚いた。
「馬鹿!とにかく格納庫まで走れ!時間が勿体ねぇ!」
ジョーは既に走り出していた。
「いいか、おめぇのメカは何でもありだろ?
 G−2号機の後部に掴まる事ぐれぇ訳はねぇだろうぜ」
甚平は指をパチンと鳴らした。
「あ、そっかー!」
「遅れるな、甚平!」
「ほいよ!」
格納庫に着くとジョーはすぐさまG−2号機に華麗に乗り込んだ。
「いいか、甚平。最高時速を出すからちゃんと掴まっていろよ!」
「えっ?時速1000kmをおいらも体験するの〜?」
「びびるんじゃねぇよ!」
コックピットを閉め、G−4号機が連結したのを確認して、ジョーはスタートした。

◆◆<20>minako◆◆
『何やってるんだ、ジョー!
 迎えに来てやったぞいっ!』
ブレスレットから竜の声がして、思わずスピードを緩めた。
『遊んでいる場合ではないぞ、ジョー』
健の声も響いた。
「馬鹿野郎!遊んでいる訳じゃねぇ!」
『あ〜あ……。『男を磨く場所』とやらに行きたかったなぁ』
甚平がぼやいたので、ジョーが怒鳴った。
「馬鹿!本当に遊んでいたように誤解されるじゃねぇか!黙ってろ!」
ジョーは甚平にG−2号機から離れるように指示をし、2機は分かれた。
「竜、早いとこ回収を頼むぜ」
『よっしゃ、任せとけ!』

こう言った遣り取りがあって、漸くゴッドフェニックスのコックピットに全員が揃った。
「で?任務は何なんだ、健」
ジョーは健の顔を見るなり訊いた。
「それがな…」
健は憂鬱そうな顔を見せた。

◆◆<21>キョーコ様◆◆
「こんなこともあろうかとケイトリア王室の宝石類には小さな発信機が取り付けられていたんだが・・」
そう言うと健はレーダーの前にいるジュンに声をかけた。
「ジュン、どうだ?」
「それがまだ四方八方へ散らばったままよ」
ジュンはレーダーを見つめたまま答えた。
「なんだとぅ?!」
ジョーもレーダーの前へ走り寄ったがどんなにジョーが睨んでも事態に変わりはなかった。
「くそう、ギャラクターめ」
「それのうちの一つが本物であとのものはダミーだ」
いつもながら健はナビ席で落ち着いた様子で分析をしていた。
その時だ。モニターに南部博士が現れた。
「諸君、良く聞いてくれ。」
「どうしました?博士」
「ギャラクターが持ち去ったものは金目のものだけではなかった」
「なんですって?」
皆の目がモニターの博士に集中した。
「カレーナ王女も行方不明だということがわかったのだ」
「はぁ〜?あのじゃじゃ馬で有名なケイトリア王国の王女様がのー?」
竜はニッっと口元を緩めた。
だが、コクピット内は緊張に包まれていた。
「で、その王女様にも・・?」
「そうだ。発信機が付いている」

◆◆<22>朝倉 淳 様◆◆
「なんで王女様に発信機なんか付けたの?」
「それはな、ジンペイ。その王女様とやらは、宮殿で大人しくしとやかにしているような女の子じゃねえからよ」
「そういえば以前に雑誌に出ていたわ。フラッと宮殿を出て2、3日帰って来なかったって」
「じゃじゃ馬というより不良少女だな」
『だが王位継承第2位の王女だ。このままにはしておけない』
もっとも賊はその女の子が王女とわかっていて誘拐したのか、それとも好奇心の強い王女が勝手に付いて行ったのかは定かではない。
「おもしろそう!とか言って、くっついて行ったかもしれねえな」
「まさか」
眉をひそめたジュンだったが心の中ではあるかも、と思った。

◆◆<23>キョーコ 様◆◆
「諸君」
再びモニターから南部博士が呼びかけた。
「発信機からの電波を分析したところ1つだけ動かないものがあることがわかった。レーダーにも出ていると思うが・・」
「お、これだ。R-P-17地点ですね」
いつの間にかジョーがレーダー前の指定席に座っている。
「ふぅーん、またえらく山奥じゃのう。そこに王女様がおるんかの?」
「ギャラクターの基地かも知れないぜ」
「これがカレーナ王女様だ」
サブのモニターに王女の顔写真が映し出された。
「あら、かわいらしい。おしとやかそうに見えるけど」
「御年11歳で、特技は乗馬、テニス、空手、カンフー・・」
「空手にカンフーですって!(腕試しに勝手にくっ付いていったに違いないわ)」
ジュンは確信した。
「おい、甚平!」
ジョーは口角を上げてニヤリとしながら嬉しそうに言った。
「男を磨くチャンスかも知れねぇぜ〜♪」
「ヤだよ、ジョー。こんな子供相手じゃ」
甚平は腕組みして横を向いた。
「何言ってんだい、おめぇだって子供じゃねぇか」
「じゃが、なんで子供の王女様が家出なんかしたりするんかいの?」
「周りは大人たちばっかりで寂しかったんじゃないかなぁ」
甚平の言葉にジュンがはっとした。

※2014.08.20 / 19:55までの投稿分を収録しています。




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