『アンドロメダ星雲での目覚め』

コンドルのジョーは、死んだ…。
そのジョーの遺体を金色に輝く鉛筆のような物体が取り込んで連れ去って行こうとは、誰も想像出来る事ではなかった。
ジョー自身が、自分は死んだと思っていた。
だから、ある星で目覚めた時は、そこが死して行く世界に違いないと思ったものだ。
しかし……。

「スペース・ジョーカーよ。目覚めるのだ」
低く良く通る声に目覚めさせられたジョーは、『スペース・ジョーカー』と呼ばれたのが自分である事にすぐには気付かなかった。
眼の前に光る物体がいた。
「私は総裁X。お前は私の力でサイボーグとして生まれ変わった。
 今日から私の手足となって働いて貰う」
冗談じゃない、とジョーは思ったが、自分が何故死んだのかも思い出せない。
それ以前に生きていた時の記憶も消えていた。
自分が誰であるかすら解らない。
「お前の記憶は消させて貰った。
 改めて地球を再侵略に行く私と共に、お前は科学忍者隊と闘うのだ。
 武器を授けよう。使い慣れている筈だ」
眼の前にテーブルが自動的に動いて来て、そこに黒い羽根手裏剣が置かれていた。
「羽根手裏剣……」
ジョーは思わず呟いた。
「ほう。記憶のない筈のお前の口から、その名称が出て来るとは思わなかった」
声の主、光る物体が言った。
「……総裁X?」
「そうだ。私は総裁X。
 お前は私の忠実なる僕(しもべ)として、これから地球侵略の為に手を貸すのだ。
 まずはその身体に慣れて貰う事だ。
 暫くは此処の訓練センターで過ごして貰う事になろう。
 その間に私は地球再侵略の為の戦略を練っておこう」
「再侵略、って事は、1度敗れたって事か?」
ジョーが皮肉を込めて言った。
何故だかこの『総裁X』とやらはいけ好かない。
「スペース・ジョーカーよ。
 地球には科学忍者隊と言う組織がおる。
 そやつらを甘く見ては行かぬのだ。
 その為には、お前の力が必要だ。
 お前を甦らせた私に、力を貸すのだ!」
総裁Xと自称する光る物体はその眼光を強めた。
ジョーは頭を抱えて苦しみ始めた。
まるで『西遊記』の孫悟空の頭にある『緊箍児(きんこじ)』と言う輪が、彼の頭の中にも植え付けられているかのように、何かによって頭が締め付けられた。
それが総裁Xの超能力によるものだと言う事は、すぐに思い知らされた。
総裁Xが眼力を弱めた瞬間に頭の緊縛が解けたかのように薄らいで行ったからである。
「良いか。私の言う通りにするがいい。
 お前の出番は間もなくやって来る。
 お前の世話はこのベリーヌがするから、何でもさせるが良い」
ジョーが見ると、12〜13歳位の可愛い女の子の姿をしたロボットが立っていた。
「スペース・ジョーカーさん。
 長いので『ジョーカーさん』と呼びます。
 私には何でもお申し付け下さい。
 総裁X様に禁じられている事以外でしたら、何でもお手伝い致します」
「お前は…総裁Xに作られたロボットか?」
「そうです。私はロボットですが、貴方はサイボーグです。
 サイボーグの身体になっても、お食事など普通に生活が出来ます。
 お食事は私がご用意しますので、何なりとお申し付け下さい」
「飯など喰いたくはねぇ。
 俺は自分が誰なのかすら思い出せねぇんだ。
 それどころじゃねぇっ!」
「無理に思い出される事はないかと存じます。
 それでは、御用がありましたら、このチャイムでお呼び出し下さい」
ベリーヌと言う少女ロボットは、そう言うと静かに下がって行った。
どうやらこの部屋は彼に宛がわれた部屋らしい。
広くて無機質だ。
ベッドとテーブル以外に何もなかった。
彼はいつまでも頭を抱え込んで考えていたが、過去の記憶は全く甦って来なかった。

ジョーカーの出番はそれから数ヶ月後に訪れた。
突然総裁Xに呼び出され、宇宙船らしき物に乗せられたのだ。
それまでの期間、特殊なヘリコプターに乗る訓練などが課されたが、彼は自由だった。
何故だかは解らないが、黒い羽根手裏剣の腕前は自分でも驚く程素晴らしいものがあった。
そして、特殊ヘリよりも、車の運転の方が性に合っているらしい事も解って来た。
これが、過去の自分を甦らせるヒントになるかもしれない、と『ジョーカー』は思い至っていた。
地球と言う星を宇宙から見たのは初めての事だった。
(美しい星だ…)
と思った。
そして、何故か懐かしい感じがした。
(どんな任務が待っているかは解らねぇが、この星が、俺の記憶を甦らせるキーポイントになりそうだ…)
そんな予感がした。
地球に着いて、数日が過ぎ、ゲルサドラと言う皇族のような男と引き合わされた。
何となく女っぽい感じを漂わせていて、ジョーカーは嫌悪感を抱いた。
「この男とお前は専門分野が違うから、心配しなくても良い。
 お前は最前線に立って、科学忍者隊と相対するのだ」
総裁Xはジョーカーが初めて見た姿とは変わっていたが、『光る物体』である事には変わりがなかった。
ジョーカーは早速闘いの場に駆り出された。
そこには4人の『鳥』達が居た。
(彼らが俺の『敵』だと言うのか?」
特殊ヘリ『コンドル型怪鳥マシーン・コンドラー』を与えられたジョーカーは静かに、総裁X配下のゲルサドラ率いるギャラクターの隊員達と闘う彼らを眺めていた。
何故か既視感があった。
敵のような気がしなかったが、総裁Xの低い声が頭に直接響いて来て、彼を闘いの場へと引き摺り出した。
「貴様は何者だ?!」
健が突如現われたジョーカーを指差して、訊いた。
「スペース・ジョーカー。
 総裁Xの懐刀と呼ばれている」
ジョーカーは名刺代わりに黒い羽根手裏剣を放った。
それを交わして、手に取った健の表情が見る見る内に変わって行った。
「黒い…羽根、手裏剣…?」
健、即ち総裁Xが『ガッチャマン』と呼んでいた男が、ジョーカーを凝視した。
「お前は何故、この武器を持っている!?」
「知らん。与えられただけだ」
「だが、その手腕…」
そう言った切り、健は固まってしまった。
その反応を不審に思いながらも、ジョーカーはもう1度羽根手裏剣を放った。
また交わされた。
羽根手裏剣を交わす男など、これまでにいなかったような気がする。
過去にも自分はこの武器を使っていたのか…?
少し疑惑を感じた時に、総裁Xの声がまた頭に響いた。
『今日は顔見せで良い。引き上げるのだ』
その指示に従い、ジョーカーは『コンドラー』を操り、その現場を去った。
訝しがる科学忍者隊の4人を残して……。




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