『G−6号・隼のジャック』

「あの黒ずくめの男は一体何者なんだ?」
健は1人打ち沈んでいた。
彼は何かを感じ取っていた。
あの黒い羽根手裏剣が、今、彼の手の中にある。
死んだジョーが使っていた羽根手裏剣と全く同じだ。
色だけが真っ黒だ。
健は自分が持っている白い羽根手裏剣をその黒い羽根手裏剣の横に並べてみた。
大きさ、形状、全てが全く同じだった。
彼はまだこれを南部博士に見せてはいなかった。
黒いレザーの全身スーツ、黒い騎士のような鼻から上を覆い隠した仮面。
乗っていたやはり真っ黒な特殊ヘリにはコンドルのような羽が付いていて、茶色でコンドルのマークが付いていた。
立ち乗りのヘリコプターだった。
あれは何かを暗示している…。
何故、コンドルがモチーフなんだ?
そして…この手の中にある黒い羽根手裏剣。
健は自室で頭を抱え込んだ。
新しい基地が出来てから、彼ら4人の科学忍者隊は基地内で暮らす事も多くなっていた。
今、彼がいるのは自分に宛がわれたその一室だった。
仮面は口元を覆ってはいなかったが、逆光で良く顔が見えなかった。
あのスタイル、羽根手裏剣の手腕。
健はジョーが生きているのではないかと言う感覚に捉われ始めていた。
クロスカラコルムではいくら探してもジョーの遺体は見つからなかった。
地割れに巻き込まれたのだろう、と捜索は打ち切られた。
南部博士はあの病状では、銃弾を受けていなくても助からない、と言った。
街医者から電送されたレントゲン写真を見ての結論だと言う。
健は頭(かぶり)を振った。
(ただの偶然か…?
 総裁Xが再び現われたのなら、俺達の気持ちを逆撫でする為に、この羽根手裏剣を利用しているのかもしれない…)
そう考えて黒い羽根手裏剣をベッドサイドのテーブルに置き、健はサイドランプを消した。

ジョーカーは自分に宛がわれた豪邸の中で、あの既視感は何だったのだろう?と考えていた。
ベリーヌが此処まで付き添いとして付けられており、いろいろと身の回りの世話を焼いてくれていた。
あの4羽の鳥のような人間達。
どこかで逢ったような気がしてならない。
敵だったのか?
頭を抱えて考え込んでも思い出す事が出来ない。
だが、何か不思議な空気を感じた事は事実だ。
総裁Xに消された記憶を取り戻す為にも、総裁Xの鼻を明かしてやるか、あの鳥達を斃すしか道がない、と思い始めていた。
引き締まった身体を露わにして、彼はシャワールームに入った。
サイボーグにされたからと言って、その身体は限りなく人間に近かった。
汗を掻かない身体になった訳ではない。
清潔好きな処は、昔と変わっていなかった。
ただ、本人にはその自覚が無かった……。

そんな折、南部博士はある少年の訓練をじっと見つめていた。
甚平よりも年上だが、まだ身体は小さい。
歳の頃は14歳。
なかなかの俊敏さを見せている。
南部はこの少年をジョーの墓参りに行ったBC島で見つけた。
密かにISOの情報部に頼んで、探させていたのだ。
実はジョーを助けた折に島の神父から聞いていた。
ジョーには弟がいるのだ、と。
ただ、ジョーとは赤ん坊の内に生き別れ、ジョーは弟の事を死んだと思っている筈だとの事だった。
しかし、ジョーの両親はあの海岸で、ジャックが仲間に連れ出されるのを待っていたのかもしれない、と神父は言った。
恐らくはその仲間が裏切ったのだろう、と…。
その弟は、ギャラクターに残され、科学忍者隊と対決すべく訓練を積まされていた。
しかし、彼は自身の両親がカッツェによって裏切り者として処刑され、兄も殺されたのだと思っていた。
カッツェに対して恨みを持ちながら、ギャラクターの内部にいる事に甘んじていた彼は、BC島からギャラクターが撤退した時を潮に、ギャラクターから脱走し、それに成功していた。
南部はそのジャックと言う少年を、ある街の不良グループの中から見つけ出したのだ。
一晩掛けて話をした。
最初は反抗的だったジャック少年が段々と心を開いて来たのが解った。
兄が生きていて科学忍者隊としてギャラクターを斃す為に死力を尽くした事。
そして、最期に壮絶に散って行った事を知ったジャックは、科学忍者隊へ入隊したいと自ら志願した。
南部はそれを引き取ってユートランドへ帰って来たのである。
この敏捷な少年はまだ幼く、ジョーよりも4つ歳下だった。
多少の面影はあるが、ジャックは母親の方に似たようで、父親似のジョーとはそれ程似ていなかった。
ジャックは自分がジョーの弟である事は伏せて欲しい、と南部に願った。
南部が見ている訓練室の中には隼に模されたバードスーツを着たジャックが黙々と訓練をこなしていた。
竜の身体よりも濃く深い茶色の羽を持ち、ベージュの身体を持ったバードスタイルだった。
兄と同様、バードスタイルの色は地味だった。
だが、メルメットにデザインされた眼は鋭い。
嘴に当たるバイザーも同様だった。
兄のコンドルのジョーに雰囲気が似ていた。
ただ、上背がまだ足りなかった。
細くてひょろっとした印象は否めない。
この『G−6号・隼のジャック』が、科学忍者隊の他の4名にお披露目される日が近づいていた。
南部はG−2号を欠番にした。
ジョー以外の者にその番号を継がせるつもりはなかった。

「諸君。今日から科学忍者隊にもう1名、補充する事になった」
『スペース・ジョーカー』と相対したあの日から1週間後、南部は科学忍者隊を呼び集めた。
南部の隣には身長は甚平よりは高いが、まだジュンよりは低い155cm程度だろうと思われる少年が立っていた。
「この少年が?」
健が疑わしそうに南部を見た。
全員が同じ思いだった。
この少年がジョーの代わりになれると言うのか?
南部に促されたジャックは全員の眼の前で「バード・GO!」とバードスタイルに変身して見せた。
「G−6号、隼のジャックだ。
 年齢は14歳。
 半年前に引き取り、諸君には秘密裡に訓練を積んで来た。
 これからは竜巻ファイターなど君達と組む技を訓練しなければならない。
 上手くやってくれたまえ」
そう言って、南部はジャックにリーダーの健から、ジュン、甚平、竜の4人を紹介した。
「ジョーと同じ、BC島の孤児だ」
南部はそれだけを告げた。
健はそれを聞いて、南部がこの少年を拾って来た理由が解ったような気がして、何も言わなかった。
「早速竜巻ファイターのフォーメーションを組み直そう。
 ジョーが抜けた分、配置も変えなければならない。
 俺と竜が土台で、ジュンとジャックが2段目、甚平が上、と言うのが妥当だろう。
 全員訓練室に集まれ」
健が命令を出した。
「ちぇっ、おいら達4人でいいじゃないか。
 ジョーの兄貴の代わりなんて務まるもんかい」
甚平が少しむくれた。
新入りが自分よりも年上だからだろう。
「甚平、そんな事を言うもんじゃないわ」
ジュンが窘めた。
「宜しくな、ジャック」
竜は早速ジャックに右手を差し出していた。
ジャックは彼らに気圧されるような玉ではなかった。
さすがにジョーの弟である。
堂々としていた。

やがて5人になった科学忍者隊とスペース・ジョーカーが再会する日が近づいていた。
ジョーカーは何か嫌な予感を感じていた。
そのモヤモヤした感じが何であるのか、まだ彼には全く予想も出来なかった。
シャワーを切り上げたジョーカーは傷跡1つ無くなった自分の身体を丁寧にバスタオルで拭いて、シャワールームを出た。




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