『スペース・ジョーカーの脅威』

健はついに南部博士に『スペース・ジョーカー』の武器である黒い羽根手裏剣を見せた。
身のこなしがジョーにそっくりである事、その身体能力が半端ではない事。
初めてスペース・ジョーカーと出逢ってから、これまで3回対峙していた。
「健。ジョーが生きていると思いたい気持ちは良く解る。
 私とて同じだ。
 だが、どう考えてもあの病状で、彼が生きていたとは思えない。
 それこそ非科学的だ。
 それにスペース・ジョーカーがジョーだと言うのなら、何故総裁X側についている?
 あれ程ギャラクターを憎んでいたジョーが、どう間違っても総裁Xに手を貸すとは私には思えない」
正論を言われて、健は口を閉ざした。
確かに…確かにそうだ…。
でも、スペース・ジョーカーと直接対峙した自分にしか解るまい。
そして、長い間共に闘って来た自分だからこそ!
健はそれを声を大にして言いたかった。
「ジャックは…、ジョーの弟だったんですね」
「本人がそう言ったのかね?」
南部が意外そうに振り向いた。
「いいえ。でも、『ジョーの森』に連れて行って、1人にした時、あいつは確かに『兄さん』と言いました」
「そうか…。本人が誰にも言ってくれるな、と言うので黙っていたのだが……。
 君は知ってしまったのか」
今度は南部が押し黙った。
「他のメンバーにはまだ話していません。
 この黒い羽根手裏剣に関する俺の意見も。
 言っても皆を混乱させるだけですから」
「健、その判断はリーダーとして的確だった。
 諸君は未だにジョーの不在とジャックの未熟を嘆いている。
 あの様子では以前のようなチームワークは当然望めない」
「解っています。今、またスペース・ジョーカーが現われたら…」
健が言い差した処へ南部の元にギャラクター出現の一報が入った。
「ギャザー・ゴッドフェニックス発進せよ!」
「ラジャー!」
健は格納庫に向かって走り始めた。

ジョーカーはいつもの仮面と引き締まった身体にピッタリした真っ黒いレザースーツを身に纏い、颯爽とコンドラーで彼らの目前に出動した。
この姿になると身が引き締まる思いだった。
人間だった頃にも、何かこう言ったスーツを身につけていたのかもしれない、とふと思う事があった。
科学忍者隊との再会は早速やって来た。
「ゲルサドラよ。科学忍者隊は俺に任せるがいい。
 さっさと任務を遂行しちまえっ!」
スペース・ジョーカーはその仮面に隠した瞳をキッと強い物にした。
科学忍者隊と言う獲物が今、まさに彼の前にいるのだ。
「ん?一羽増えているな…」
ジョーカーは呟いた。
一番チビの燕よりも少し大きいが、それでも小粒な隼が一羽…。
それを見た時、ジョーカーは何か特別な物を感じた。
まさか自分の弟だと知る由もない。
記憶を喪っていたし、いや、記憶があったとしても、弟が赤ん坊の時に生き別れ、死んだ事になっていた。
何かが違う。
科学忍者隊を見た時の既視感ともまた違う感情が、その隼を見た時に溢れて来た。
科学忍者隊と対峙する時には捨てようとしている人間らしい感情が何故かジョーカーの胸を熱くしていた。
(何だ、この感触は…)
ただ、彼は科学忍者隊に対して何も恨みも憎しみも無い事だけは強く感じていた。
ジョーカーは自分の感情を持って行く場所を失い、その隼に向かって黒い羽根手裏剣を放った。
隼のジャックはそれを跳躍して避けようとしたが、黒い羽根手裏剣は利き腕の右手の甲に刺さった。
「ジャック!」
ジュンがその前に立ちはだかった。
ジョーカーはその科学忍者隊の女隊員にまた既視感を覚えた。
健を初めて見た時と同様の不思議な感覚だった。
大鷲、白鳥、燕、みみずく…、そして新たな隼。
少なくとも前の4人には既視感を感じ、隼には何か特別な物を感じた。
ジョーカーは闘いの中で自分自身を律する事の難しさを初めて感じた。
(あいつらは本当に敵なのか?)
自問自答を始めた彼の頭にまた総裁Xの魔法が掛かった。
頭が締め付けられるようなあの苦しさだ。
ジョーカーはコンドラーの上に立っていられなくなり、制御が難しくなったのを潮に一旦体制を立て直そうと、上空へと離れた。

(くそぅ。こんな事で一体どうしたと言うんだ?)
ジョーカーは強い意志で自分の心を立て直した。
(あんな鳥達を斃せないとは俺もどうかしている…)
『その通りだ。スペース・ジョーカーよ』
総裁Xの声が頭の中に響き渡った。
『早く行くがいい。あやつらが貴様の記憶を取り戻させる鍵となるのだ』
「俺の…記憶を…?」
ジョーカーはキッとその瞳を遥か下方に向けた。
ギャラクターの雑魚と闘っている鳥達が見えた。
コンドラーを自在に扱って、ジョーカーは科学忍者隊の元へと急降下した。
いつも太陽を背にしている事が多かったジョーカーだが、科学忍者隊の眼の前にしっかりと現われたのはこれが初めての事だった。
彼の黒い仮面は額から鼻までを騎士のように覆っていた。
だが、その特徴ある口元から顎に掛けてのラインと仮面から溢れる枯葉のような色の豊かな髪を見た健は自分の考えを確かなものにした。
「お前は…ジョーなのか?」
健の言葉に他の4人は驚いて彼を見た。
「健、ジョーが…ジョーが生きている訳がないわ」
ジュンが震える声で言った。
「兄貴、おかしくなっちまったのかい?」
甚平も健を振り仰いだ。
竜から応急手当を受けていたジャックだけが、もしや?と言う顔で健を見た。
「おい、健。ジョーが生きとると思いたいのはおら達もじゃが…。
 いくら何でもそりゃないんと違うかのう?」
「それなら、竜。お前、あのスペース・ジョーカーと対峙してみろ。
 何かを感じる筈だ」
「おめぇら、つべこべ言ってねぇで、俺に纏めて掛かって来たらどうなんだ?」
ジョーカーは彼らの遣り取りを見ていてイラつき、挑発しに掛かった。
その語り口調も、その声もまさにジョーそのものだったのだが……。
ジョーカーは竜に羽根手裏剣を容赦なく浴びせて来た。
「あわわわ…。あれがジョーならおら達にこんな攻撃をするかえ?」
竜は飛び上がりながら、重い身体を敏捷に動かして、逃げ回るのだった。
それだけ驚異的なスペース・ジョーカーの攻撃なのだ。
信じられない身体能力。
自らの肉体と同様に自由自在に操る事が出来る『コンドラー』。
銃器と同時に操る黒い羽根手裏剣。
まるで瞬間移動のように動き回るその素早さ。
「竜の奴、あれでいいダイエットになるかもな?」
「甚平、笑っている場合じゃないわ」
そう言ったジュンはスペース・ジョーカーの身のこなし振りを見ていた。
「確かに、あの特殊ヘリに乗っているから解りにくいけれど、攻撃の仕方はジョーに似ているわね、健…」
「そうだろう?」
「でも、そんな馬鹿な……」
2人は背中合わせになって闘いながら会話をしていたが、その間をジョーカーの黒い羽根手裏剣が飛んで来て引き裂いた。
「まさか…そんなまさか……」
ジュンも思わず呟いていた。
「あのスペース・ジョーカーの脅威は私達にとって、科学忍者隊の存続を揺るがすものよ。
 あれがジョーだなんて……」
ジュンは信じられなかったが、彼女の勘もまた、健と同じものを感じ取り始めていたのだった。




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